SSブログ

清岡卓行のこと [徒然]

昨夜9時過ぎ、畏友であり師でもある知人からめずらしく電話がかかってきた。
かけてきたきっかけは、なぜかすぐに解った。「清岡卓行が亡くなりましたね」電話口でその知人は切りだした。やはりというか、推測はあたっていた。

私は柄にもなく、いや今は柄にもなくだがあの当時は別にそういう柄に染まっていなかった40年前から10年ほど、つまり今の妻と結婚する頃まで、詩ばかり読んでいた時期があった。最初は誰もがたどるように萩原朔太郎に石川啄木、宮沢賢治、中原中也、立原道造といった詩人達からはじまり、多分に兄の影響もあったと思うが荒地の詩人達を夢中になって読んだ。鮎川信夫、森川義信、田村隆一、北村太郎、三好豐一郎、黒田三郎、中桐雅夫、木原孝一等。
なかでも好きだったのは鮎川信夫、田村隆一を筆頭に北村太郎などは、刊行される詩集はたいがい手に入れて読んだ。また吉本隆明の「転位のための十篇」に強烈な感動を覚えたり、茨木のり子、吉野弘、石原吉郎などに惹かれたが、私の意識の本棚のなかで少しだけ特別な場所を占めていたのが清岡卓行だった。めちゃくちゃ好きだというわけでもなく、なのにこの人は私の中で黒田三郎よりも間違いなく上位であり、鮎川信夫や田村隆一に劣るわけでも並ぶわけではないがけっして浸食されることがない場所をずっと占めていた。
今思うと多分、理由は二つほどあげられる。ひとつは原口統三の友人であったことと、当時周囲の少し上の世代の人たちの間でまるでバイブルのように読まれていた吉本隆明に対して、彼が控えめながら覚悟を秘めた反論をしていることを知ってからだ。それは吉本の詩人の戦争責任に対するものであったように思う。私は強面の論客である吉本隆明に対して正面から避けもせず、演じもせぬ彼の反論の仕方、立ち位置に感動し、支持した。
その彼が小説を書いて芥川賞をとった時、彼がプロ野球セリーグの事務局に勤め、公式日程を組む仕事を目立ちもせず実直にこなしながら詩を書いていたことを何かから読んで知っていたので、妙に嬉しかった。大連については大連小説全集上下巻があるが、どの小説も失望させなかった。
また、後に短いエッセイで知ることになった彼の家系に、独りよがりの縁を感じたのだった。
幕末の土佐勤王党に清岡道之助という人物があり、藩政改革と攘夷、武市瑞山の釈放を嘆願したが藩から逆臣とみなされ、二十三人の同士と共に私の生まれ育った奈半利町から始まる野根山街道に逃れたものの捕らわれ奈半利川の河原で処刑された。この二十三人の士達は大変優秀な連中だったそうで、もしあのまま逃れ、中岡慎太郎や坂本龍馬らと合流していれば維新後の明治体制も大きく変わっていたであろうとは、田舎の郷土史家から聞かされた憶えがある。清岡卓行はこの清岡道之助に繋がるらしいことを彼らしく控えめに書いていた。
お里が知れるので作品にまで踏み込むまい。喪失感や悲しみはない。透明感溢れるエロティシズム、明るさ、愛や悲しみにふさわしい人生を全うされたのだと信じる。合掌。

それにしても、詩を読むことに耽溺するのは一時の秘めた愉楽だったのだが電話の主はどうして、それも清岡卓行への少しばかりの傾倒を知っていたのだろうか・・。


nice!(1)  コメント(19)  トラックバック(1) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 19

ふゆにっき

ちょっと気になったんで来ちゃいましたwがんばってください!
http://ameblo.jp/huyuhuyuu/
by ふゆにっき (2006-06-06 08:13) 

シマリス

miyataさん、おはようございます。
本当に沢山の本を読んでいらしゃるのですね、それに詩集までも。
清岡卓行の「アカシヤの大連」は私も持っています。
大連に憧れて、数年前には行こうとさえ思ってしまいましたもの。
小説家としか知りませんでしたが、機会がありましたら今度詩も読んでみます。今までは敬遠していたきらいがありますが、今はゆっくりその世界に浸れそうです。
by シマリス (2006-06-06 08:49) 

miyata

シマリスさん、おはようございます。
コメント、いつもありがとうございます。本は小学校の時から好きだったですね。学校の図書館にあるジャングルブックや少年少女名作文学集など片っ端から読んで、こりゃあこの田舎で俺ぐらい本を読んでる奴はいないだろうと秘かに自負していたのですが、いたんですねえ、私の倍くらい読んでる人が。同級生の女の子でした。それまで気にしたこともなかった女の子でしたが、それ以降秘密のライバルでした(笑)。
でもですねえ、清岡卓行のことは思い出したんですけど、なぜか16,7歳から30歳くらいまでに読んだ本の内容がほとんど思い出せないんです。まるで記憶喪失のようにすっぽりと抜け落ちているんです。多分背伸びして理解もせずに小難しい活字を追ったからなんでしょうねえ。それでも本は何度も質草になって一時の享楽を与えてくれましたけど(笑)。
清岡卓行の詩は単行本は今は手に入らないと思いますが思潮社から現代詩文庫というシリーズでほとんどの現代詩人をカバーしているはずですからそれをお勧めします。
by miyata (2006-06-06 09:33) 

miyata

ふゆにっきさん、おはようございます。
コメントありがとうございます。
でもこんなおやじのブログ、なにが気になったんでしょうかヽ(。_゜)ノヘッ?
by miyata (2006-06-06 09:39) 

シマリス

miyataさん、現代詩文庫ですね・・・・ネットで探してみます。
小学生のときからの本好き、私もそうだったのですが同じでも年月と共に違いが出るのものですね(笑)
毎週土曜日、朝日新聞に「愛の旅人」という特集がありましていつも楽しんでいます。
今回は中国の「金瓶梅」でした。高校生のとき、訳もわからず読んだ記憶があります・・・オマセさんでした。
by シマリス (2006-06-06 11:57) 

練習菌

う〜みゅ、文学の方は全然なので、何も言えませんわ。汗
「大連」と「アカシア」がそういう出自だとは知らなかったなあ。
松任谷由実の「大連慕情」はそれをモチーフにしたのかな?
文学少年だったんですねえ。まるで「みみをすませば」みたい。(^m^)プププ
図書カードに名前を書くのが快感だったでしか?
電気の本のカードには私の名前が残ってるはずだけどなあ。
ああ、中学校の図書館を訪ねてみたくなった。
by 練習菌 (2006-06-06 17:39) 

honnoridesu

↑ 文学少年だったのだと、私も思いました。
いまだにどこかそんな面影があるかな^^

父の本を整理しているのですが、もう、むちゃくちゃ大変で…
ただ、へ~、こんなのに興味を持っていたのか?なんて再発見もあったりしています。
by honnoridesu (2006-06-06 18:35) 

Silvermac

土佐ゆかりの詩人ですね。それにしても有為の青年二十三名の斬首、酷い話です。
by Silvermac (2006-06-06 20:07) 

練習菌

たしかにmiyataさんの記憶力はすごいです。
私なんか耳から入った情報はあっというまに忘れてしまう。
目から入ったのは忘れにくいんだけど〜
鉄板の話なんか良く会話を憶えているもんだと感心しましたよ。
by 練習菌 (2006-06-06 22:56) 

miyata

シマリスさん、こんばんは。
本好きのおませさんだったんですか?
確かに、読書体験の中ではおませさんになるかもしれないですね。私もそういう面があったと思います。でも、現実ではからっきしでしたが(^◇^;)
うーん・・、あの秘かなライバルもおませさんだったのだろうか。
by miyata (2006-06-06 23:57) 

miyata

練習菌さん、こんばんは。
それぞれ記憶の質が違うんでしょうね。でも記憶力は確実に落ちてます。
図書カードの裏に自分の名前を書くのはやっぱり楽しみでした(^^ゞ
でもあるとき、カードにことごとく先客の名があり、それが同じ名前の主であることに気がつきました。全然目立たない子だったので驚きました。ほとんど口を聞かないまま小学校、中学校を卒業してそれぞれの道を行ったんですけどねえ(-.-)y-~~
by miyata (2006-06-07 00:11) 

miyata

ほんのりさん、こんばんは。
いやあ、過日の面影はどこにもありませぬ(__;)
お父様も読書家だったんですね。確かに本っていうのは残されるものにとってはやっかいな代物かもしれないです。叔父が亡くなったとき、かなり苦労しました。でも貴重な本があったり、叔父が編纂した貴重な社史を発見したり、読書とまた違う楽しさが本にはありますね。古本屋の親父になって悠々自適で暮らせたらなあと夢見たこともあります(笑)。
by miyata (2006-06-07 00:19) 

miyata

SilverMacさん、こんばんは。
そうですね。むごい話です。でも、お仕着せではない信念に殉じることが出来たというのは、時代とはいえうらやましさを感じます。
by miyata (2006-06-07 00:25) 

まお

miyataさん、素敵なエッセイを読ませていただいて楽しかったです。
私もある時期詩を読んだものでした。アポリネールの詩に魅せられて、パリまで行き、セーヌ川を船で下ったりしました。
by まお (2006-06-09 01:01) 

土佐にいながら恥ずかしいほど知りませんでした。
by (2006-06-09 19:45) 

miyata

マオさん、こんばんは。
アポリネールに魅せられてパリまで行かれたなんて、渋いですね。
私、なぜか翻訳詩はからっきし駄目でした。全然理解できなかったんですよねえ。今にして思うとバックボーンが見えてなかったんだなと思います。
スコットランドの荒野に立って、あ、これがリア王(解釈が違うかもしれませんが)が彷徨った荒野なんだって腑に落ちた事があります。それまでのイメージだとまるでお化けが出てきそうな日本の荒れ地しかイメージできませんでしたから。
by miyata (2006-06-10 02:59) 

miyata

なかなかないさん、こんばんは。
清岡卓行は高知に縁があるとあまり知られてないんじゃないでしょうか。
私も最初は全然知りませんでした。フランス文学の徒と土佐はあまりイメージが繋がりません(笑)。
by miyata (2006-06-10 03:01) 

M

はじめまして。Mといいます。
ぼくも「荒地」が中心にあって、清岡卓行は、ちょっと離れた別の棚に置いてあるといった感じの学生時代の本棚を持っていました。

TBします。
年を取りそこなった元詩人ですが、よろしくお願いします。
by M (2006-07-02 16:38) 

miyata

Mさん、こんばんは。
うかつなことに今頃いただいたコメントを拝見しました。ごめんなさい。
TBありがとうございます。書いている内容はお恥ずかしい限りですが、これも何かの縁ということで、今後ともよろしくお願いします。
by miyata (2006-07-20 04:41) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

ショック歯痛 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。