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転院 [介護と日常]

一昨日の午後、病院から転院先の病院のベッドが空いたので移って欲しいと連絡が入った。いつかと問うと翌日の11時にあちらの病院着でお願いしますということだった。急な話だった。一向に片づく気配が見えない引越準備の中で、いささか疲れてきていたところに追い打ちをかけられるような気分になった。

炬燵の中で浅い眠りから目覚めた後、ついつい「起きた。コタツで寝てしまうと希望なんて言えなくなるような目覚めをする。」などと愚にもつかない事を書いていると吉本隆明の訃報がタイムラインに流れた。

「 @47newsflash: 戦後の文学、思想に影響を与え、「共同幻想論」で知られる評論家で詩人の吉本隆明氏死去。87歳。posted at 05:11:39」

もぞもぞと炊飯器のスイッチを入れ、朝食の準備をして転院のための用意をする。朝食を済ませてから9時に家を出て妻がいる病室に行った。なんだか険しい顔をしながら目を開いていた。病院の支払いを済ませ、荷物をまとめ、予約してもらっていた介護タクシーを待つ。

ベッドからストレッチャーに移る際、妻は大きく痙攣した。そして車で移動中にカーブで負荷がかかるとやはり大きく痙攣をして冷や汗をかいた。心配することはない。もうすぐ桜が咲くよ。外を見るのは久しぶりだね。早く家に帰ろう。ずっと話かけ続けた。

新しい病室のベッドに移り、担当の看護師や主治医の説明や質問を受けた後仕切りのカーテンを閉じたとき、妻はようやくホッとしたような表情をした。眉間のしわも消えていた。いったん家に帰り、着替えなどを用意して夕方にまた来ると告げて病院を出た。

帰宅して襲い昼食をとってからコタツにはいるとまた睡魔が襲ってきた。

誰かが死んだとき、この人がなにを言うのか、書くのか、もっとも声が聞きたかった人が吉本隆明だった。友人は新聞に寄稿されたその追悼文を送ってくれたし、雑誌なども片っ端から買い求めた。そしてその本人が亡くなった時、その声を聞きたいと思う人は思い浮かべても、いなかった。いや、ネットで知り得た少数の人の声が聞きたいと思った。その少数の人たちのつぶやきをチェックしながら眠りに落ちた。

目覚めると外はすでに暗くなっていた。慌てて家を出て面会時間終了間際に病院についた。妻は私の顔を認めるとすこし微笑んでくれたような気がした。

追悼 吉本隆明「吉本隆明がどんなふうに世界を見ていたか、なぜか私にはよくわかっていて、それがまったくの見当外れだったとしてもよくわかっていて、そこから語り出される言葉の意味も、だれにも説明できないほど透明だった。そのせいで吉本の発言が誤読されるとき、私ははげしく傷ついてしまう。私を傷つけた人々を私は傷つけ返さなければならないとさえ思う。一定の距離のへだたりを確保するためにはつき合わないだけではあまりにも足りない。みんな吉本隆明のことを忘れてください。」・坂のある非風景
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コメント 14

yakko

こんばんは。
奥様の転院が無事に済んで良かったですね。
お疲れのようで うたた寝は風邪を引きやすいのでお気をつけ下さい。
恥ずかしながら 吉本隆明さんのことは名前を聞いたことがある程度です・・・新聞を読んで吉本ばななさんのお父さんだと知りました。
by yakko (2012-03-17 21:18) 

Silvermac

奥さまの転院が終わったとのこと良かったですね。
吉本バナナさんが娘さんとは知りませんでした。
by Silvermac (2012-03-17 21:27) 

ほんのり

おはようございます。
お引越しに転院、お忙しいですね。
奥様の状態が安定しますように…

お忙しいとご自分の身体まで気が回りませんが、どうぞ大切になさってください。
こちらも、横浜に住んでいる娘一家が、札幌のお婿さんの実家にお引越しです。
遠くになるので、とても淋しいです。
by ほんのり (2012-03-18 07:14) 

ミッチー

奥様の眉間のしわ。奥様には言いたいことがあったのでしょうか。
阪神淡路の大震災での被災身内を10年(施設)で引き取りました。最後は脳梗塞で要介護5.A病院で心のこもった介護をうけました。
介護してくれる側。お願いしている側と心をひとつに感謝し。
幸せにすごさせていただきました。
施設にいますとどうしても健側まで動かなくなりました。でもわかったら私の手を握ってといいますとぎゅっとにぎってくれました。
一筋の涙が今でも心に残ります。
by ミッチー (2012-03-18 18:44) 

すず音

お元気ですか?
転院なさったのですね。
色々と大変な時期に・・・
奥様の容態が安定しているのでしょうか?
生きる力があれば 介護もしがいがありますね。
なんで こんなに 人生って・・・
by すず音 (2012-03-19 06:06) 

hana2012

おはようございます。
途中の二度の痙攣の際、付き添っていたmiyataさんはどんなにか驚かれた事でしょう。
大事までは至らずとも、お二人とも相当お疲れになられましたね。
そう遠くない内に、奥様の帰宅が許される状況となりますよう・・・私も願っております。

以前何度か、ばななさんのエッセイを紹介した時。miyataさんは必ずコメントを下さっていましたね。
その時から、吉本隆明さんへの思い入れの深さは感じておりました。
しかし私も、その著書を読んだことは勿論なくて。。。ばななさんの父の作るお弁当はチャチャチャだったとのエピソード、そしてあのエラの張ったお顔を思い浮かべるのみなのでした。
by hana2012 (2012-03-19 10:18) 

miyata

yakkoさん、こんにちは。
やっぱり引越は大仕事で、疲れます(T.T)
若い人は逆にばななさんのお父さんとしてしか知らないそうです。
お父さんは詩人なんですけど、詩がほんとにすばらしいんです。奥さんが句集を出しているんですけど、この句集がまたすばらしいんです。70歳を過ぎてから勉強をはじめたんだそうです。
by miyata (2012-03-20 15:09) 

miyata

SilverMacさん、こんにちは。
いつもありがとうございます。転院がなんとか無事に済んでホッとしました。ばななって変なペンネームですよね。お父さんも最初は勘弁してよと思ったそうです。
by miyata (2012-03-20 15:11) 

miyata

ほんのりさん、こんにちは。
もう、待ったなしになってきて、しっちゃかめっちゃか状態です(^◇^;)
娘さんのお引っ越し、それはさみしくなりますね。わたしはここを切り抜けて、早く落ち着きたいです。それまで妻に頑張ってもらわねばなりません。
by miyata (2012-03-20 15:14) 

miyata

ミッチーさん、こんにちは。
妻はきっとあんまり引き回して欲しくなかったのだと思います。
でも、転院して少し落ち着いたような気がします。もう一度笑顔を見たいですね。
by miyata (2012-03-20 15:16) 

miyata

すず音さん、こんにちは。
転院しました。急性期を過ぎたという判断なのでしょう。非常に低いレベルでの安定です。来週に胃ろうをします。栄養状態が好転してはたして表情が戻るかどうか…。言葉はたぶん、高望みになると思います。でも、まあまばたきでも会話は出来ると思ってますから。すず音さんもお身体を大切にしてください。
by miyata (2012-03-20 15:21) 

miyata

hanaさん、こんにちは。
今日やっと引越業者も決まり、電話やネットの引越手続も終わりました。あとは不要品をトラックに積んで処分したり、まとめたりで休む暇もなくなりそうです。
わたしは吉本ばななのよい読者ではありませんが、お父さんに関しては単行本になった本のほとんどは読んでいます。読んで人より利口になったわけではないですけど、まあなんとか世の中に遅れながらも最後尾あたりを一生懸命ついて行けるようにはなったのではないかと、とても尊敬しています。
最初、その顔を知って驚いた双璧が梶井基次郎と吉本隆明です。
by miyata (2012-03-20 15:27) 

Allora

我が方は基本在宅で過ごせています。
miyataさんちに比べれば何程のこともありません。

吉本隆明は名前は知っており、雑誌等の短文は読んだ記憶があるようなないような。
梶井基次郎は、なんと言っても「檸檬」でしょう。でも河原町の丸善もなくなり、基次郎もあちらで嘆いている事でしょう。

そんな事より転院に引っ越し、ご苦労さまなことです、お疲れが出ませんよう。
by Allora (2012-03-20 23:21) 

miyata

Allora さん、おはようございます。
その檸檬を買った寺町の八百屋さんも二三年ほど前にお店を閉じました。止まることなく世界は動いているのですね。
だいぶ疲れました。正直。でも、この久々の大イベントが刺激になっていることはたしかです。ありがとうございます。
by miyata (2012-03-21 08:00) 

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