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引っ越しの簡単な顛末 [介護と日常]

引っ越しは転勤族でもなかったので何度もしたわけではないけれども、結婚してからは三度経験している。すべて京都市内だが、いわゆる洛中での生活経験はない。結婚当初は伏見区の一軒家に住んだ。門があり玄関先にけっこう広い庭があり(といっても三坪ほどだった)気に入っていたが妻の仕事の都合により東山に変わった。その家は、上の子が中学生の時のある日、出張から帰ってくるとなにやら大工さんが家に入っていて、裏のお風呂とお風呂に続く居間が消えていて驚いた。私がいないときに妻が自分の仕事場にするために工事を決行したのだった。さすがにそのままでは住めなくなり、また伏見区に引越をした。今度は駐車場付きの家だった。これも気に入っていたのだが、家主さんが経験のない人で貸した家が心配のあまり干渉しすぎるので妻が我慢できなくなり、三度目の引っ越しをすることになった。この引っ越した家が、今までの舞台である。

今までの家はすべて妻が見つけてきた。大家との交渉も全部妻がやった。私はいつも渋々従うだけだった。最初の家は変わるのが嫌で私だけが居残り、二ヶ月抵抗したのだが、ある日妻がやってきて小遣いを一万円増やしてあげると言われてあっさり従った。

だが、これらの引っ越しはまだかわいかった。貧しいながらも必要最小限より少しだけの贅沢と希望を背負って私たちは移動できた。三度目の引っ越しをした年は今でも覚えている。その年に阪神・淡路大震災が起こり、オームのサリン事件があり、そして務めていた会社が消滅したからだ。

今回の四度目の引っ越しは今までの引っ越しとは違い、憂鬱だった。実際、とても一ヶ月で終わるような作業ではなかった。引っ越し前に処分せざるを得ないものを二日にわたってトラックを借り何度も処分場に行ったが、それでも引っ越しの荷物は引っ越し先に収まりようがなく呆然とした。
引っ越し業者の作業は、当日の朝8時半から始まり深夜日が変わる頃に終わった。そして、引っ越しからしばらく段ボールの隙間で寝た。整理と片付けは、この家のサイズに収まりきるようになるまで、ただただ処分を継続していくしかなかった。5月18日に最後の整理しきれなかった家具や備品を処分して、ようやく妻の退院を迎える目途がたち、退院前日のベッド配置に間に合った。

この間私は、家具の処分や設備工事で行けない時を除いてほぼ毎日出かけ、看護師さんの監督の下チェック項目に従って病院で吸痰や流動食の注入の指導を受けた。土日は子供達が休みを利用して交替で病院に行きやはり指導を受けた。

余計なことを書かずにかいつまんで今回の引っ越しのことを書くと、まあこういうことだった。捨て去ったものが余分なものだったとは思わない。もったいないと少し思わないわけではなかったが、それは自分への期待に対する名残惜しさみたいなものだと思う。

いよいよ終盤戦にさしかかったことを実感している。この狭い路地奥にある築百年の長屋の生活はじつはとても落ち着いて気に入っている。表の戸には網戸もなく板の隙間から外の明かりが漏れてくる。家も微妙に傾いている。が、新しく塗られた各部屋の本格的な土壁はリフォームの嫌な匂いもほとんどなく、しっとりと生活の煩雑な音を包み込んでくれる。まだ二階はほとんど片づいていない。もう少しこのアンバランス、不安定を抱えていた方が自分にふさわしいような気がするのでぼちぼちとやって行こうと思っている。

さて、退院してからの妻は予想通りすぐにこの家に馴染んでくれた。それは良いのだが状態が上向いたり安定するまでには至っていない。体温調節機能が損なわれているためか、すぐに発熱する。冷やすと平熱に戻るのだが気がつくのが遅いと危険を伴う。咳や痰が相変わらず多い。覚醒しているときには目で頷いたりサインを送ってくれるが、15分以上は続かない。エアマットを使っているのだが、微妙に静かなその音が夜耳について私がなかなか寝つけない。三時間ごとに体位を変えるのがけっこうな負担だ。とまあ、細かなことをあげればきりがない。どんな日常も似たり寄ったりだと思っている。今の目標は、まずは今年の夏を妻とともにしのぎきること。という、わが家的にはけっこう大きな目標を立てておくことにする。
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Silvermac

 転勤族でしたので数年おきに住居が変わりました。従って大型の家具は買いませんでした。郷里に建てた家に住みだして15年、わが人生で同一場所在住最長記録です。
 70歳を過ぎて人生の終末が近づくにつれて「断・捨・離」を心がけるようになりました。40年以上道楽したステレオも4年ほど前に処分しました。カメラも新しいのは買いますが、手持ちカメラは処分します。男子の平均寿命は79.8歳、今年末には到達します。後は新しいスタートと考えています。
by Silvermac (2012-06-08 08:22) 

hana2012

こんばんは。
新居のリフォームとお引越し、大変お疲れ様でした。
結婚後、我が家も今の家が4軒目になりますが…もうこれ以上の引っ越しはとても考えられません。
入居した時には広いと思ったものが、この20年間でいつの間にか増えてしまったものの多いこと。
今の私にはそれを移動、処分するだけのエネルギーはありません。

奥様の状態が安定をされ、皆様が自然なの毎日が送れますように。
来る夏の暑さは、今から心配しております。
by hana2012 (2012-06-08 18:32) 

yakko

こんばんは。
引っ越し、大変でしたね〜 私も何回もやりました・・・
京都の夏は暑そうですから 何とか乗り切って下さい。
by yakko (2012-06-08 22:24) 

ミッチー

知人が仕事もやめて要介護5の連れ合いを引き取りました(病院から)
妻は胃ろうに注入だけのせいかつです。
朝ヘルパーさんが車椅子に乗せる(オムツ)一日中車椅子です。
夜ヘルパーさんが自立尿器とともにベッドへ

風呂便摘と全部ナースやヘルパーさんが来る
つき一回は病院へ預けて妻は旅にでる。
by ミッチー (2012-06-09 00:05) 

ほんのり

おはようございます。
お引越し、お疲れ様でした。
奥様、自宅に戻れて良かったです。
miyataさん、これからも息が抜けないでしょうが、ご自分の身体も労わってあげてくださいね。
by ほんのり (2012-06-09 05:43) 

miyata

SilverMacさん、こんばんは。
やはり、家具というのはいろんな意味で大きなウエートを占めますね。わが家の家具はほぼ妻がその時々に買い揃えたものだったのですが、最終的に残ったものは結婚当初に妻が持ってきた家具でした。この家はきっと私たち「夫婦」の終の棲家になると思います。夫婦が終わった後はどうなるか見当もつきませんが、まあ良い家に入れたと思います。大きな家具もなくなりせいせいしました。
by miyata (2012-06-09 20:59) 

miyata

hanaさん、こんばんは。
この家のリフォームは家主がしたもので、ボロボロの長屋を妻の介護も考えてリフォームするので入居して欲しいと持ちかけられて、飛びつきました。なにせ、築百年ですし家主の思い入れもあって変なものもわざわざ残されています。でも、表通りから路地に一歩はいるととても静かだし街中にもすごく近いし便利です。まあ、前の家から直線距離で100メートルも離れていないので日常生活ではあまり引っ越ししたという感じはなく、前のご近所さんとも今まで通りのつき合いが出来ています。

まあ、これは身軽になりなさいという事だったのだろうと思うようにしています。ものが無くなった分介護もやりやすく快適ですね。
夏、お互いに頑張って乗り切りましょう!
by miyata (2012-06-09 21:07) 

miyata

yakkoさん、こんばんは。
ご夫婦で引っ越しの達人だったのですよね。いろいろご苦労をされたことと思います。最後の夏にならないように頑張ります。
by miyata (2012-06-09 21:09) 

miyata

ミッチーさん、こんばんは。
要介護5となると、お一人での介護は難しいと思います。在宅での介護をやり通すには制度の手助けが欠かせないでしょう。若ければ多少は頑張れてもずっとはやはり無理でしょう。そういう点でお知り合いの地域はそういうサービスが充実していて大変羨ましいかぎりです。病院での入院が制限されている今、無理矢理在宅を強いられる現状では、月1回くらいの解放感は私も味わいたいと思います。
by miyata (2012-06-09 21:14) 

miyata

ほんのりさん、こんばんは。
ありがとうございます。いや、ほんとに戻れて良かったです。ほんのりさんも、リフォーム引っ越し・仮住まい生活にお疲れになりませんように。
by miyata (2012-06-09 21:16) 

すず音

こんにちわ
いかがお過ごしでしょうか?
落着かれたのでしょうか?

命があって 生きていって 
それだけでも 幸せですが
これからの介護も きっと 上手く出来るでしょう
心配は 奥様の病状です

生きるって ゆるくないですね

影ながら応援しています
PEGは馴れましたか?
by すず音 (2012-06-10 14:42) 

tomoko

引っ越し無事終わり良かったね、大変だったね。

丁度落ち着いた頃かな、7月1日日曜日京都に行く事に成りました。
ホテルも予約して有ります。
携帯の電話手違いで削除してしまい、K君に教えて戴いた、
番号は通じませんでした。

何処に連絡したらよいか、電話か、私のブログに宜しく
お願いします。
by tomoko (2012-06-10 15:11) 

Allora

引っ越しされ新たな家での介護生活、どうぞお疲れが出ませんように。

我が家も母の衣類を捨てるだけでも大変ですが、どこかで思い切らないと捨てるに捨てられず状態に陥ってしまい、週2回のヘルパーさんが来る時だけ、チョコチョコと捨てています。
それが引っ越しとなるのですから、家具やらの処分はさぞかし大変な作業だったでしょうね。

書かれているように、まずこの夏を乗り切って下さい。
それではどうぞ奥様をお大事に。
by Allora (2012-06-18 17:55) 

練習菌

続編「引っ越しの悲惨な顛末」は有るのだろうか? o(^o^)oドキドキ
by 練習菌 (2012-07-05 12:30) 

hana2012

こんにちは。
お送り頂いたお荷物、昨日受け取りました。
心のこもった品々を、お忙しい中本当にありがとうございました。
メルアドを紛失してしまったため、こちらにてまずは失礼致します。

by hana2012 (2012-08-18 14:08) 

練習菌

なんとか夏は乗り切れたようですね〜?
by 練習菌 (2012-10-11 15:07) 

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