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2006夏。その1 [介護と日常]

わが家の南壁伝いに、筋違いの通りに出る三十メートルほどの小さな細い通路がある。地図にも載っていない。一応名前が付いていて狸小路という。自転車に乗るとすれ違い出来ない。ハンドル幅に少し余るくらいの道幅だからだ。人一人でもすれ違うのはやっとである。すれ違おうものならお互い壁を背にしてお腹を引っ込めるようにして横歩きし、互いをやり過ごさなくてはいけなくなる。従って先に向こうから進入していれば必然的に通り過ぎるまで待つことになる。両サイドの入り口でお互い顔を見合わすこともある。その場合は遠くから譲り合うのである。こんな小路だから利用するのは近所の人に限られる。最近気がついたことだが、譲り合い、あるいはお先にと声をかけ合うのはお年寄りばかりではない。時にはクラブ帰りの中学生であったり、ベビーカーを押す若いお母さんの時もある。普通の通りでは道一杯に広がり頓着しない中学生もこの小路では挨拶無しには通り過ぎることは出来ない。
そんな小路だが時には深夜、近くで飲んだ酔っぱらいが高歌放吟しながら通り過ぎるときもある。そういう時は家の中で苦虫を潰しながら声が遠くなるのを待つ。ごくたまには、ここでくだを巻く輩もいる。二三人で辺りもはばからず大声で騒ぎ立てる。度を過ぎれば二階の小窓を開け注意を促すことになる。悪態をつきながら通り過ぎるもの、物言わず去るもの、いろいろである。むろん、ご近所さんではない。三年ほど前の事、やはりこの小路で深夜騒ぐものがいた。おもむろに窓を開け「うるさい!静かにしろ!」と怒鳴った。すると騒いでいた若者らしい数人はうわ!と驚きの声を上げ「逃げろ!」と小路を走り去った。ほどなくして玄関の戸が開く音がした。そしてなにやら悄然とした様子で息子が帰ってきた。私の顔を見ると「ごめんなさい」という。走り去った若者達は息子と仲間達だった。

前口上が長くなった。今年の夏の終わりについて書きたかったのだ。それは八月三十日。午後七時前。間違いない。顔面を腫らして寝ている妻に何か柔らかいものをと冬瓜のそぼろあんかけをつくっていて生姜が切れているのに気がついた。手に入れるために短パンにTシャツという出で立ちで玄関先に置いてあった自転車に跨った。ジットリと汗ばむほどの暑気がまだ街を覆っていた。狸小路に入り、中ほどにさしかかったその時、突然足下から肌寒い風が立ち上り、小路を駆け抜けていった。思わずブレーキをかけ、棺桶の中から眺めたような細長い空を見上げた。空は薄墨色に染まっていた。
小路を通り抜け、辺りを見渡すと、重く湿気を含んだ汗ばむような暑気と今年の夏は、ひんやりと乾燥した風にガラガラと音を立てるように追いやられていくのがはっきり見えた。暑さと湿気で潤むように滲んでいた店の灯りや家々の灯りが、目の前でゆっくりと透き通るようにその輪郭を現したのである。こうして今年の夏が去ったことを私は知った。

七月から八月の始めは、わりあい気ぜわしい。七月七日は息子の誕生日。別に祝ったり特別のことはしない。家で祝われるよりも外で遊ぶ方が良いに決まっている。と、思っていると今日は何の日か知っているかなどと尋ねてくる。仕方がないのでとっておきのワインを出す(別にたいしたことのないワインだが)。
続いて二十七日は妻の誕生日だ。この時は出来るだけ賑やかに祝ってやる。今までそうしてもらったことはないので、妻は喜ぶ。妻の誕生日が過ぎると陶器祭の準備が始まり、街全体が落ち着かなくなる。
八月十日。陶器祭が終わるともうお盆だ。

誕生日にポーズをとる妻。

八月十三日より隠岐で夏休みを送る。頂いたのは大きな天然の岩ガキやアワビ、サザエ、イガイなど10キロほど。でも、今年はさすがに大騒ぎとはならなかった。写真もほとんど撮っていない事に気がついた。

今年初めて泳ぎに行った久美の方の海岸。

海岸に咲いていたオニユリ。

おなじく久美の海岸で。ナデシコ(撫子)

同じく久美の海岸で。ツリガネソウ(釣鐘草)


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honnoridesu

おはようございます。
miyataさんの写真、久しぶりですね。
なんか、やっぱり写真ってその人らしさが出るものなのですね。
暖かくて、繊細です。
奥様もお元気そうで、こんなオスマシの写真もステキです。

そういえば、miyata家は夏のお誕生日が多かったですね。
陶器祭、隠岐旅行… 夏の行事が終わって、いよいよ秋ですね。
by honnoridesu (2006-09-04 08:18) 

左膳

こんにちは。朝晩が涼しくなった今日この頃ですが、
まだまだ日中は残暑が厳しい毎日が続いています。
釣鐘草や撫子の花が綺麗ですね…。
拙者もこんな素敵な写真を撮ってみたいものです。
by 左膳 (2006-09-04 11:25) 

シマリス

miyataさん、こんにちは。
昨日はもう秋と言っていながら、日中のこの暑さ・・・
miyata家は夏生まれの多いご家族なのですね。
奥さまの満足そうなこのお顔・・・女性はいくつになってもお祝いを頂く・祝ってもらうのは、嬉しいものです!(自分を含めてです)
まるでサギソウのように真っ白なナデシコの花。
このような花に心牽かれるお気持ち、解るような気が致します。
by シマリス (2006-09-04 13:39) 

練習菌

ウッ、ツリガネソウまでは気がつかなかったなあ。よく見ると可愛い花ですねえ。
久美の海岸に生えているナデシコは白に見えるくらい淡いピンクで、花びらのギザギザが深かったですね。
調べてみても隠岐の固有種というわけでもないみたい。よそのサイトの写真だと、濃いピンクだったりするし〜。色も形もいろいろあるみたいですね〜
by 練習菌 (2006-09-04 14:23) 

Silvermac

ナイスショットばかりですね。奥様も頬笑んで、幸せな時間のようです。狸小路、いいですね。路地、小路大好きです。
by Silvermac (2006-09-04 17:38) 

suzune-k

こんばんわ
 奥様の笑顔が素敵ですね。
 これだけ表情があれば介護もやりがいがありますね。
 日々の介護本当にご苦労様です。
by suzune-k (2006-09-04 19:24) 

前口上に(笑)。狸小路を抜け、夏から秋への移りゆくさまを肌で感じられ・・・ここで一気に秋が来ましたか。
奥様の笑顔もにこやかで、元気そうですね。
久美の海岸の花々も素敵です。
ツリガネソウが涼しげでいいです。
by (2006-09-04 21:24) 

miyata

ほんのりさん、こんにちは。
わが家の誕生日は夏と秋冬に分かれます。だいたい私の誕生日は皆の記憶から消去されてるようです(笑)。
写真は普段ほとんど撮りませんからねえ。まったく、感動のない自分の感性が嫌になるときがあります(__;)。
笑顔は良いですね。癒されます。今は転倒の影響で駄目ですね。ちょっと能面のような毎日です。それでも、かなり復活してきましたか・・。
by miyata (2006-09-05 17:19) 

miyata

左善さん、こんにちは。
確かに日中はまだまだ暑いですね。
写真は、撮れますよ。チャレンジしてみませんか。
by miyata (2006-09-05 17:21) 

miyata

シマリスさん、こんにちは。
何でもないものでも、プレゼントすると喜んでくれます。すぐに忘れてしまうんですけどね(__;)。まあ、この一年で表情が豊かになってきてくれたのが嬉しいです。
by miyata (2006-09-05 17:23) 

miyata

練習菌さん、こんにちは。
え?気がつかなかったのですか?これは何の花だろうと菌さんに質問したんだけどな。あの海岸は女房にはちと不適でした。やはり、砂浜がないと駄目ですね。きれいなんだけどねえ。
by miyata (2006-09-05 17:26) 

miyata

SilverMacさん、こんにちは。
SilverMacさんにナイスショットと言われたらちょっと恥ずかしいです(^^ゞ
一日に一回笑顔の時、が目標みたいなもんです。それには転倒とか怪我を回避しなくてはいけません。なかなか骨が折れます。
by miyata (2006-09-05 17:31) 

miyata

すず音さん、こんにちは。
ありがとうございます。やりがいがようやく分かりかけてきたこの頃です。
by miyata (2006-09-05 17:32) 

miyata

タケノコさん、こんにちは。
狸小路ってなかなか洒落た名前がついてるでしょう(笑)。
近所の人に聞いたら、相当以前からの名前らしいです。ま、それでも戦前か戦中のことだと思いますけど。
釣鐘草は、小さくて可愛い花でした。でも、オニユリの咲き方が印象的でした。
by miyata (2006-09-05 17:38) 

よめ

miyata様こんばんは
奥様の写真拝見しました。とても幸せそうですね。            すごくいい笑顔だと思います。
私の方は、介護申請がおり、介護1とのことです。
月と金にまずはディサービスに行くことになりました。
お父さんも少し元気が出てきました。
これからも様子を見ながら協力していこうと思います。
by よめ (2006-09-05 22:17) 

練習菌

ツリガネソウは不覚でした。こんなに可愛い花だとは現地では判らなかったです。
眼が悪くなってからは、見ようとする意欲が減退しているんですねえ。
もう少し腹を据えて物事をみなければ〜 (;~_~)9 ググッ!
海底に石ゴロゴロ、海藻ワサワサの場所は私も苦手でし。
海藻に刺すような生物が潜んでいないかという恐怖心がぬぐいきれないでし。
魚があまり居なくても、砂浜の海水浴場がいいなあ。
by 練習菌 (2006-09-05 23:43) 

miyata

よめさん、こんにちは。
女房のこと、褒めていただき、ありがとうございます。
介護認定が下りたのですね。いよいよ、これからですね。
長い取り組みになるでしょうけど、お疲れになりませんように。
by miyata (2006-09-06 10:53) 

miyata

練習菌さん、こんにちは。
泳ぐには、汐浜が良いかもしれませんね。近いし。
それに、都万ですかねやっぱり。
by miyata (2006-09-06 10:55) 

tomoko

N子さん明るいとても良いヾ(=^▽^=)ノですね、写真で見ると穏やかで、病気の様には見えませんが・・・残酷です。
貴方のたんたんとした素晴らしい文章に魅せられてもっと続きが読みたくなりました。文才有るね素晴らしい!私の脳みそはだんだん退化するのみで、孫に今パソコン色々教えられる事も有ります。
絵文字も教えてもらいました。
by tomoko (2006-09-07 20:57) 

miyata

ともちゃん、こんばんは。
そちらはもう寒いくらいなんでしょうね。カメラを向けると「撮るの?」と、いかにも面倒くさそうにしながら、はい、行くよと言ったらとたんにあの顔です(笑)。病気ではなく、たくさんある辿り方の枝のひとつと考えたいですね。元に戻れないのは我々も結局同じです。
文才ですか?文才があればねえ・・・(-.-)。脳の退化は私も最近自覚します。それに、目が悪くなってきたのが辛いです。ふと思ったのですが、年取ると悠々自適の生活とは現実的にも精神的にも全然逆の方向に行ってるわけですが、これは若い時に年取ることを拒否する思考に身を置いた報いかななんて考えたりします。
by miyata (2006-09-08 01:51) 

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