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経過15 [介護と日常]

暖かかったり寒かったり。昨日、今日と寒の戻りのようで上っ張りなしには外に出られなかった。ここしばらく病院へはあまりの人出にバスで通うのを止め電車を利用して病院に通っている。出町柳駅から病院まで歩いて15分ほどかかるが散歩がてらに歩くのにはちょうど良い距離でさほど苦にならない。桜はようやく終わった。妻とは病院の近所にある百万遍知恩寺と京大の農学部に行ってそれなりに堪能した。

妻の右足が少し動くようになった。先週の金曜日、久しぶりに病院通いを休んだ。その日は娘に行ってもらったのだが、帰ってきた娘がお母さんの右足が動くって知ってた?と訊ねてくる。全然知らなかった。太ももを持ち上げられるというのだ。さっそく翌日病院に行って妻に動かせられるかを確かめると、何を今さらというような顔をして「動くよ。何をいうの」というので、やってもらうとたしかに座った状態で右足を10センチほど持ち上げられる。リハビリ室で先生に聞くとちょっと持ち上げられるようになりましたねえと言って、今日はお父さんも来ていることだし、まだ歩けないけれどもひとつ階段に挑戦してみましょうといって階段上り下りに挑戦した。もちろん、全面介助なのだが八段の階段の上り下りを二回往復した。
周りからも声をかけられるし、拍手なんかをされて妻の顔も晴れ晴れしている。けっこうおだてに乗りやすい性格だったのである。せめて、杖か歩行器を使えば短い距離なら移動できるようにならないものかと願っている。

食欲も旺盛で、残すことはほとんど無い。たまにケーキなどを食後に持っていくことがあるがそれも全部食べる。今週はタケノコご飯を炊いたので少しだけ持っていったが、夕食を全部食べたうえにタケノコご飯も全部食べた。今回の事故でずいぶん細くなったが、栄養状態は悪くなく今のところ床ずれの心配もないということだ。

なにかの拍子に突然不機嫌になるときがある。そうなると何を言っても無視するし、例えば食事の手助けをしようとすると拒否される。こんなことはずっと前からあることで、なにがきっかけに不機嫌になるのかなあと思っていた。突然不機嫌になってやることなすことに抵抗されたり拒否されたりするとこちらも腹が立ってくる。
つい最近食事中にまたかという感じで不機嫌になり口をつぐんで食べなくなった。一定時間を過ぎると忘れるので再開すると食事は全部食べるのだがその時はたまたま「なんで?」と聞いたら理由を話してくれた。「仕事場で私が仕事しているのにあんたが意地悪したり、悪口を言うから」という。いつのことだと聞くと「今よ!なんでそんなこというの!あんたはひどいわ。あきれるわ」といきなり私は大悪人になっている。ここは家じゃなくて病院だよというと、「誰が病院に?あんたおかしいわ」とさらに続ける。肩を叩いて「周りを見てごらん。病院でみんなと一緒にご飯を食べてるよ」と言うとやっと周りを見渡してぽかんとしている。

少し事情が飲み込めてきた。彼女はなにかをきっかけにして、半分眠った状態になっているのだと思われる。今までこういう状態をたんに妄想と片づけていたがもう少し身体的な条件に近いところでこうなっていることがわかったように思えた。これはちょっとした発見だった。昨日も食事中にそうなったとき、試しに瞬間目が覚めるようなきっかけを与えて違うことに注意が集中するようにしたら、すぐに復帰した。やったことは単純で肩をポンと叩き小さく鋭く「アッ!」っと違うところに視線を移したら、それにすぐに反応して私の視線の先を見た。その後は何事もなかったように食事に集中できた。

夢の中での私はなぜいつも不機嫌な思いにさせる存在なのかということは問題として残るものの(苦笑)、今までもこういう事はわかっていたはずなのに、なぜ今さら気がついたのかというと、それは今まではきっと解釈の世界で格闘していたからに違いない。だから、目の前の実態と重ならなかったのだ。
たくさんのことが悩みの種で時間と労力を費やしてきた割りにはあまりにもささやかな発見だが、まあそういうものだろう。器質に拠るもの幻想に拠るものという腑分けは細分化すればするほどいずれ破綻すると思うし分断線を追求するだけの作業かもしれないが、私にとってはこんな風に<異常>の仮面を剥がして極小化していくか、私も含めてすべての人が<異常>だと言い切る以外に私が考える介護生活を生き延びられないと思っている。もちろん、私のような立場は進行性の脳障害を負われている方の介護には無効であるだろうことは承知している。

あいもかわらず蛸壺の中だがいずれ水面に出てなにごとかを語れる日が来るかもしれないし、そのまま水面下で一生を終えるかもしれないが今のところそういうことは私にとって重要課題ではない。
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SilverMac

回復もあり、新しい発見があるのですね。
by SilverMac (2010-04-15 16:28) 

練習菌

うちの奥さんが脳生検のあとのぼんやりした状態で、絵を描かせると
蛸壺に入り込んだ自分の絵を描く事が多かった。
もう本人はそんな事は覚えてないんだろうけど、当時は自分の状況を
そういう風に表したかったんだろうと、妻の親友は語っていた。
今の病院は、転倒を恐れるあまり、妻の自発的な行動を制限するような方向に動いてる。
しかし、それでは後悔が積み重なって行くように思えて、
なんとかガス抜きしてあげたいと焦るだけの私。
by 練習菌 (2010-04-15 20:49) 

タケノコ

全介助ながら階段歩行、回復力に驚かされるばかりです。
短い距離ならという希望も、実現できそうな気がいたします。
何よりご本人が、ふさぎ込んでいない、拒絶せずに取り組んでいらっしゃるのが良い方向に向かうのにプラスになっているではと思います。
ここまで介護をされてこられても、また新たな発見があったのですね。単に妄想とかいうのとは異なるようですね。なにがきっかけなのか(脳内のスイッチなのかそうでないのか)つかめれば、医学的進歩なのでしょうが・・・
by タケノコ (2010-04-15 22:32) 

うしさん

miyataさんのご苦労を知りつつほのぼのとよませていただきました。
例のレピー小体病かも?と思う方は変なことを私に言ってもすぐにわれにかえるのです。ただ目がうつろ?
なぜか私のことを突然下の名前で呼び始めた
これも私への親しみかなと思っている
by うしさん (2010-04-15 23:14) 

miyata

SilverMacさん、おはようございます。
一定の期間は停滞のようなんですけど、次の段階を用意していますね。それも徐々にではなく、ある種一気の飛躍のような変化を見せてくれます。
発見は、いつもそこに目の前にあるものですね。なんにもわかっていないし気がつかないものだなあという思いを強くします。
by miyata (2010-04-16 07:19) 

miyata

練習菌さん、おはようございます。
そういう絵を描いていたというのは胸が痛みます。そういえば女房も立体を捉えられない頃、変な絵ばかり描いていました。
行動を抑制するというのは、病院の限界ですねえ。良い療養施設ならまだ少しは面倒をみてくれるのでしょうが。
by miyata (2010-04-16 07:31) 

miyata

タケノコさん、こんにちは。
ありがとうございます。前向きな性格ではあるのです。もちろんその正反対の部分も色濃く持っているのですけど。
経験を重ねたといってもわからないことだらけですね。知識が邪魔することもあります。「妄想」と我々が一般的に捉えても実際にはその原因や現れ方にはいろんな要因があって専門家は言葉の意味がそもそも違っていたりします。素人の危ういところはそこなんでしょうね。なにかを発見した気になった時、出来るだけ文献をあたってみますが難しすぎて理解できないことが多いです(苦笑)。そして、専門家ってこんな難しいことをくぐり抜けてきてるのに実際はどうなんだよという思いももちます。矛盾ですね(笑)。
by miyata (2010-04-16 08:02) 

miyata

うしさん、おはようございます。
そのお方は、専門医の診断は受けているのかなとちょっと気になりました。レビーの場合は「アリセプト」という薬が有効だとわかっています。とくに初期には有効だとされています。
実際に病気だとしたらその方はほんとうはとても混乱して苦しんでおられると思います。「そろそろ惚けてきたな」という評価と「病気かもしれない。苦しみはじめているな」と見てあげることとは雲泥の差があります。ここを社会は知識として蓄積していく必要があります。他人様のこと故、踏み込むのは難しい部分がありますが、待ったなしではないかと私なら判断しますが。親しみのあらわれとかの牧歌的な話じゃないと思います。
by miyata (2010-04-16 08:16) 

yakko

お早うございます。
奥様の回復振りは嬉しいですね。お花見も楽しまれたようで日を追って良くなっておられるように感じます。食べることは基本ですから
食欲があるのは良いことですよ。私なんかありすぎて困っていますが・・・京都は桜が終わると少しは静かになるでしょうか〜
by yakko (2010-04-16 10:22) 

hana2009

こんにちは。
昨日、今日と、本当に寒いです。これでは、季節がまた冬に逆戻りしてしまっているよう。。。
温かな病棟内と、外の気温との気温差と、これは風邪を引く原因のひとつと思います。通院時には充分に暖かい格好で、どうかお気をつけくださいませ。

階段の上り下りまでされたとは、素晴らしい回復ぶりに驚いてしまいました。
その時々で、こうした発見があったり、悩んでみたり・・・って、以前の事を思えばこれも嬉しい経験ですね。

by hana2009 (2010-04-16 13:53) 

うしさん

今日の高知新聞にレピーのことが出ました
今度あったらご主人様かお嬢さんに話してみましょう
ありがとうございます
by うしさん (2010-04-16 14:30) 

ほんのり

こんばんわ♪
東京は、明日の朝は雪が降るかも…との予報です。((p(>_<)q))さむーいっ!
今日の記事を読んでいて、全く関係はないかも知れないけど、私が10数年以上かかわっていた心障学級(今は支援学級とか呼び方が変わっていますが…)での事を思い出しました。
自閉症の子供が逃げ出す?異常行動を移す前、ほんのちょっとのサインがあるんです。
それを見逃さないで、その瞬間にその子の名前を呼んであげるのです。
早すぎても、遅すぎてもダメで、ほんの瞬間を読むのです。
そうすると、又落ち着いて作業をしたり、勉強をするのです。
なんか似ているな~なんて想ってしまいました。
ごめんなさい、奥様の事がそうだと言っているのではなくて、なんかその頃の事を懐かしく思い出してしまったのです。

天候がとっても不順です。 どうぞ休みながら暖かくして、病院に行ってくださいね。

by ほんのり (2010-04-16 18:57) 

miyata

yakkoさん、おはようございます。
今の病院は食事がおいしいようで、ヘルパーさんも評判がよいらしいですと言ってました。豪華じゃないんですけど、喜ばれる味のようです。最近特によく食べます。他の患者さんや家族の方に、ほんとに良くなったと驚かれます(^・^)
by miyata (2010-04-17 08:52) 

miyata

hanaさん、おはようございます。
寒いですねえ。そちらは雪だったようですね。野菜がずいぶん高くなりました。この冷え込みでフリースのジャンパーを仕舞ったのにまた出してきました。炬燵もまだまだ片づけられません。
今回の入院は、驚かされてばかりです。ほんとによくぞここまで回復してくれました。嬉しいです。
by miyata (2010-04-17 08:59) 

miyata

うしさん、おはようございます。
どういたしまして。ちょっとえらそうに言ってすみませんでした。
by miyata (2010-04-17 09:19) 

miyata

ほんのりさん、おはようございます。
やっぱり雪だったんですね。寒かったんでしょうね{{{{(;>_<)}}}}
サインって見抜くのは難しいです。まだ僅かしかわかりません。後から気づくことの方が多いのです。これにも才能があるのかなあとがっかりします。どうしてそうなるんだろうという方に関心が向いているのも原因かなと思いますけど。かすかなサインを見逃さず、タイミングを外さずというのはすごいなと思います。現実的な技術を習得した方が早道かもですね。
by miyata (2010-04-17 09:29) 

Allora

こちらは、家の改修許可の返事が届かなくて、母の退院も足踏み状態です。
退院したら退院してきたで、軽度ではありますが認知症にどう対応したらいいか・・・
貴兄の一連の介護についての記述はとても参考になります。いずれにせよどうぞ奥様をお大事に、また御自身もご自愛下さい。
by Allora (2010-04-18 21:30) 

miyata

Alloraさん、おはようございます。
返事遅くなりました。風邪で伏せっておりました。
認知症への対応、経験的に「どうしてこれができないのだ」と思うことがいちばん駄目みたいです。というのがそここそ本人がいちばん苦しんでいるところなので混乱と不安が増幅します。まるで二人が協働して階段を転げ落ちるみたいなもんです。
だから、技術的にどうするか以前に認知症に対する知識を得ておくことは大事なことです。それも症状例を知ることではなく原因を認識できていれば、逆にいろんな症状も腑に落ちます。というのが、一年半彷徨った苦い体験です。
三好春樹の「じいさん・ばあさんの愛しかた」とか、大井玄の『「痴呆老人」は何をみているか』なんか、読みやすくて一冊読んでおくと後がずいぶん違うという内容を持っていると思います。退院される前に一冊どうでしょうか。

風邪でまる二日間寝込んでいました。相手がいないので寝込む事ができると知ってるようでどうも軟弱になって駄目ですね(苦笑)。
by miyata (2010-04-22 09:00) 

yakko

お早うございます。
風邪を引かれていたんですか〜(@_@;) このところの乱高下の激しい天気は何なんでしょうね〜 体調が狂ってしまいますね。どうぞくれぐれもお大事になさってください。お陰様でうちは二人とも細々ながら元気で過ごしております。早く暖かくなってほしいですね。
by yakko (2010-04-23 10:18) 

SilverMac

気温の乱高下、身体が付いていきませんね。もう良くなられたでしょうか。ご自愛下さい。
by SilverMac (2010-04-23 10:22) 

miyata

yakkoさん、SilverMacさんこんにちは。
ご心配いただきましてありがとうございます。復活しました。久しぶりに寝込むくらいの風邪にやられました。わが家で風邪の原因はいつも娘でして、新しく記事を更新しました。しかし、私はもう気合いと根性では風邪をやり過ごすことが出来ないようになっているようです。
変な気候が続きます。お二人もご自愛ください。
by miyata (2010-04-23 14:33) 

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