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生まれ故郷での展示会・その一 [介護と日常]

息子と甥が、ありがたいことに高知の奈半利町で活動する「浦の会」から招待していただき、11月2日から展示会をすることになった。私も連休を利用して生まれ故郷である奈半利に4日土曜日から妻と娘を連れて行ってきた。生まれ故郷といっても家も地縁も血縁もない。父は神戸で母は秋田出身。ようするによそ者であった。街灯もないような田舎でどうして二人が出遭ったかという話はさておき、生まれ育った奈半利を出たのは16歳の時。その後隣町で2年間過ごし(といっても、高校は寮生活だったので隣町で生活したという実感はあまりない)高知を出た。京都に居着いてからも奈半利にはずっと愛着と複雑な気持ちがあった。一度はほとんど縁が切れてしまっていた生まれ故郷で、しかも奈半利のことをまったくといって良いほど知らない息子と甥が陶器の展示会を開くという、不思議で素晴らしい機会を与えてくれた友人達や浦の会の方々に心から感謝したい。

いきなり話がそれる。結婚前、夜な夜な何かにうなされるようになって極度の睡眠不足に陥った。寝ようとすると足下というか部屋の隅からなにかモヤッとした白い霧のようなものが出てきて、やがて部屋のあちこちからそういうものが現れ、のしかかってくる。金縛りにあって動けなくなるなど、ほとほと困った。ただ、自分の中では説明が出来ていて、それが霊だとかはちっとも思わなかった。
妻は猫が苦手で、猫もその事がわかるらしくすり寄られたことがないと聞いていた。ある時心配した妻がアパートに訪ねてきたときのこと。突然真っ黒い猫がにゃーと鳴きながら部屋に入ってきて妻の足下にまとわりついた。妻は悲鳴を上げてすくんでしまったが、猫はお構いなしに体をすり寄せる。私がその猫に触ろうとするとさっと身を翻して部屋の外に出て行ったまま、二度と現れることがなかった。少し霊能力があり(らしい)、手相も見る(という)妻の叔母が、その猫は一年前に亡くなった妻の父が結婚する娘を心配して猫に乗り移って出てきたのであろうと厳かに告げた。

その後すぐに新居となる借家に引っ越して結婚するまでの間一人住まいを始めたが、そこでも同じ現象に悩まされた。むしろだんだんひどくなった。寝る前だけではなく、仕事を終えて家に帰るとその白いもやもやは部屋のあちこちから立ちのぼり私を迎えるようになった。布団を引いて寝ようとすると家のどこからか大きな音が出はじめ、私の睡眠不足は一向に解消しなかった。
ある日会社の同僚が青白くなった私の顔を見て話しかけてきた。実はこの同僚と私はあまり仲が良くなかった。酒の席でも会議の席でもとにかく何かあると議論になった。二つほど年上だったが尊大で高踏的な彼の話しぶりが気に入らなかった。また彼が詩や歌のことを語りたがるのが特に許せなかった。そんな彼がふと声を潜めて「君は何かに憑かれてるんじゃないか。実は自分の親は霊能者で全国に観音像を造ることを生涯の仕事と考えてる人物なのだが、一度みてもらったらどうか」と。もちろん私は断った。だが二三日後突然彼の父親が会社に現れて私の前に立った。小柄で丸い体をしていて優しげで彼の父親とは想像できない風貌だった。手に大きな数珠を持ち私を一瞥するや「ああ、これはこれは。今度休みの日にあなたの家に伺いましょう。家はどこかね」と断り切れない妙な力を持った口調で話しかけてきた。

休みの日、妻も一緒に同僚の父であるその人を新居となる家で迎えた。その人は袈裟を身につけて現れ、挨拶もそこそこにまだ家具もなにもない私が寝ていた床の間がある部屋に入り大きな和蝋燭を立て、少し離れたところに座り祈り始めた。私と妻は仕方なく隣の部屋でその様子を見ていた。蝋燭の火が揺らぎ始め、炎が大きく伸びたり縮んだりし始めた頃その人は振り返り「40代の着物を着た中肉中背の女性がここにいて、寂しがっている。間違いなくあなたの身内の人だが、亡くなった中にそういう人はいるかね」と、聞いてきた。私は身内で亡くなった女性は母しか知らなかったので多分母親ではないかと答えた。その人は「この人はどこか遠いところに一人いて自分が忘れ去られるのを寂しがっているようだ。遺骨とかどうしているかね」と、再び聞いてきた。私はその場で神戸にいる父に電話をした。すると母の遺骨は田舎の寺(高知)に預けたままになっているということがわかった。その人は「すぐに迎えに行ってあげなさい」と、強くもないのに肯くしかない口調で言った。妻はその人にまとわりついてきた黒い猫のことを尋ねたところ、その猫も着物を着た女性だろうという。妻はなんだか父親であって欲しいような素振りだったのだが。その人は言い終わるとお茶を一口だけすすり、妻が用意したお礼を受け取りもせず、なんだか空気のように帰って行った。不思議な人だった。その後お会いしていない。

次の休みの日、私は母の遺骨を預けているという奈半利の隣町の寺を訪ねて遺骨を引き取って帰ってきた。そして、しばらく家に置いた後、近所の寺に頼んで預かってもらうことにした。その後、時たま疲れたときに金縛りに遭うことはあっても、白いモヤッとした妙な質感を持ったものはいつの間にか現れなくなっていた。そういうことがあってから以後、私は田舎とほとんど関係が切れたようになっていた。再び田舎と再会するのはその後しばらくしてからなのだが、気が向けば書いてみたい。
ところで会社の同僚だが、儀礼的なお礼はした。が、関係は変わることもなかった。ただ顔を突き合わせて議論をする機会はうんと少なくなった。霊とか心霊現象とかは認めなかったがなんだか敗北した気分だった(その後コリン・ウイルソンを読んだり、ユングとフロイトの逸話を知ってそうとも言えないのかもと思ったこともある)。
思うに、私が高所恐怖症になったり突然倒れたりした心理的背景には、こういう部分(リアリティーを持った現象として幻聴や幻覚を見てしまう面)がどこかにあるのだろうと思う。

思いっきり脱線した。4日早朝に出発して高速に入り、いつも渋滞する宝塚トンネルが順調に流れているのを確認して思わず口笛を吹きそうになったとき、財布を忘れてきたことに気がついて青ざめた。財布には免許証も入っている。引き返すには時間的にも距離的に難しいところだった。しかも、娘は私と出かけるとき自分の財布を持たずに出るようなちゃっかりものだから冷や汗が出た。おそるおそる娘に財布は持っているかと尋ねると、持っているという答え。ちょっと安心してそのまま目的地に向けて走ることにした。問題は免許証不携帯なのだが、そこは居直ることにした。神戸ジャンクションから明石大橋を渡り、淡路島を抜け鳴門海峡を渡り、四国に入る。高松道に入り、これなら予定よりも早く高知に着くと思っていたら突然前が詰まった。まったく動きそうもない。理由もわからない。対向車線から走ってきた車が速度を緩めて×マークを出した。遠くから救急車だか消防車だかのサイレンが聞こえる。対向車線からも車は来なくなった。詰まってしまった道路に皆が車から降りて先を見たりしている。情報も流れない。30分ほど様子を見たが埒があきそうもないのでUターンして高速から降り、国道を走って閉鎖区間を通り過ぎてからまた高速に乗った。1時間半ほどロスをした。どうやら高速が火事だったようだ。
阪神が春にキャンプをする安芸市に住む友人のところに立ち寄り、奈半利に着いたのは午後3時半ごろだった。展示会場に行くと浦の会の人と友人達が迎えてくれた。妻は車の長旅が応えたようで、フラフラ状態。友人宅で休ませてもらうことにした。4日前から奈半利入りをしていた息子と甥っ子は元気そうだったが、いろいろカルチャーショックを受けたり、面白い出来事に出くわしたようで、話したくて仕方がない風だった。
長くなりそうなので、その晩の宴会のことや翌日わざわざ来ていただいたSilverMacさんご夫妻のことなどは、次回に。
※11.13誤植修正


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左膳

拙者は、霊能というものを一切信じていなかったのですが
自分自身に経験がないし、到底理解できなかった。
しかしブログを始めてから何人かの人が、同じような体験を書かれているのを読んで世の中には“不思議”という言葉があることを
再認識しました。
by 左膳 (2006-11-12 10:00) 

私σ(=^‥^=)はmiyataさんの『親戚の方』と同じようなタイプです。
でも、具体的に見えたり聞こえたりは出来ず、『あ、なんかいる!』という探知機です。
対処法とか何がどうなっているのかは判らないので、気がついても一切言いません。信じてもらえませんから~(=^‥^A アセアセ・・・
by (2006-11-12 10:26) 

miyata

左膳さん、こんにちは。
実は私も霊能というのは信じていないのです。自分が経験したことは説明できるように思っていますし、同僚の不思議な父親のことも推測できるように思います。けれど、不思議は確かにあるとも思います。例えば私の母が息を引き取った日、仙台にいた叔母から電話がかかってきました。夕べさっちゃん(母のこと)が仙台に来たというのです。それから、私の父が一人住まいで亡くなっていたとき、私は数日ひどい悪寒にみまわれ、ふいに父のことが気になり神戸の自宅に決死の進入を試みて亡骸を発見しました。でも、これもまだ不思議とは言えないような気がします。だけど不思議と言っておいた方がなにかと面倒ではないな思う面もあります(^^ゞ
そうそう、私は3回、火の玉をはっきり見たことがあります。内一回は明らかに化学現象のようだったので、怖くなくなりました。
by miyata (2006-11-12 12:09) 

miyata

kuriさん、こんにちは。
察するに、kuriさんは「いたこ」のような素養の持ち主なんですね。妻の叔母はご主人を亡くされてから何かを感じるようになったと言います。仙台にいた私の叔母は話をしているとまったくいたこさんのようだと思える人でした。これは人間の能力のひとつですね。大事に失わないようにしてください。
by miyata (2006-11-12 12:14) 

霊媒は信じない私ですが
家族が病気をするとふと榊が枯れてはいないかと気にする私です。
懐かしい故郷へのご来高よかったですね
何の展覧会ですか
地元の洋画展とか?
by (2006-11-12 16:10) 

息子さんと甥っ子さんが展示会で、miyataさんの故郷へご招待。これも何かの縁なのでしょうかね。どのような作品?の展示会だったのかな。
同僚の方は、性格はそうでも、よほど心配してくださったのですね。
勧誘とかでなく、親身になって祈祷してくださったようですね。
免許不携帯。。。。途中で検問なくて良かったですね^^;
by (2006-11-12 17:02) 

tomoko

お~こわ!私は全然体験した事無いけど、ものすごい怖がりで、今家に誰も居なくて、・・・奥の座敷でパソコンの音と雨だれの音だけで背中がゾクゾク~~もうやめて茶の間でテレビでもみよっと!我が家の老犬は耳も目も悪くとても静かで頼りに成れない。
奈半利の話楽しみにしています。
by tomoko (2006-11-12 20:33) 

練習菌

私はたったひとりでお寺の駐車場に泊まったりできるくらい、
全然霊感のかけらもないんですが、miyataさんは有る方なんですねえ。
全然感じなくても、たとえ科学的に計測できなくても、有るものはあるし、
それ自体おかしいことではないのだろう。まだまだ人間の科学は
自然界のごく簡単な部分しか説明できないのだから。
だから、自分のカンはある程度信じた方が良いと思います。
by 練習菌 (2006-11-12 21:34) 

miyata

なかなかないさん、こんばんは。
息子が陶芸の道に入っておりまして、なぜか甥が後を追うように入ってきたのです。二人は一心不乱に土まみれになっております。もし、いつかまた高知で展示会のような機会がありましたら、是非いちどご覧になって、厳しい意見を浴びせてやってください。
て、こんな風に書くと普通の親ばかみたいですね(^^ゞ
by miyata (2006-11-13 01:20) 

miyata

タケノコさん、こんばんは。
父親を会わせてくれた同僚には、友情も同時代性も感じていません。こんな風な明確な敵との遭遇も珍しいと今でも思っております。今会ってもすぐに果てない議論がはじまると思います。私にとって悔しいのは、「だから、あなたとは戦うのだ」と、言い切れない相手、リスペクトも出来ない相手だからです。
息子や甥の作品は、実はほとんど記録できていません。でも、雰囲気だけは次回にアップしようと思います。
by miyata (2006-11-13 01:28) 

miyata

ともちゃん、こんばんは。
何言ってるんですか。あなたこそ、正統な血筋ではないですか。東北は、ほんの最近まで、日本ではない日本でありました。私は自分に東北の血が流れていることに、高知で生まれ育ったと同じ誇りを感じております。
by miyata (2006-11-13 01:32) 

miyata

菌さん、こんばんは。
私も一人でお寺の駐車場に寝ることが出来ます。いろんな人達が訪れます。車が突然揺れたりすることもあります。ひょっとしてこっそり菌さんが揺らしてるのかな(笑)。
不可知のことに対する科学者菌さんの謙虚な姿勢を信頼しております。
by miyata (2006-11-13 01:36) 

Silvermac

私は全く霊感体験がありません。多分、鈍いのでしょうね。寒くなりましたのでご自愛下さい。ご一緒の写真を取り損ねて残念でした。
by Silvermac (2006-11-13 08:35) 

シマリス

miyataさんは色々な経験をなさっているのですね。
霊の存在、私も信じてはいないのですが、あり得ることとは思っています。タダ絶対に自分の目で確かめたくはありません、とても恐がり、気が弱いので。。。
miyataさんが16歳まで生まれ育った高知の奈半利町へ再訪された不思議なこの機会、ご家族もご一緒で、素晴らしい事でしたね。
続きが楽しみです。
by シマリス (2006-11-13 09:46) 

小夏

私は今まで不思議な体験をしています。
最初は10代後半の「金縛り」から始まりました。
現在のようにテレビで前世や霊体験を放映し気軽にそういう話を出来る状況でなかったので、自分がなんか変になったのかと思うこともありました。
毎晩金縛りや恐ろしい夢(その時は夢だとは思えなくて実際に起っていると)、幽体離脱みたいなもの・・・
寝るのが恐くって不眠症になりかけたこともあります。
ただ、恐ろしい時と恐ろしく感じない時があったのは何故でしょうか?
金縛りは「あっ、きたあ」と 慣れてくるとなんとなく自分で解けるようになってきました。
繰り返し見る気持ちの悪い夢も最近偶然夢判断が出来る人と出会い
お話して安心しました。
最近は少なくなったけど、たま~にありますね。
by 小夏 (2006-11-13 17:02) 

miyata

SilverMacさん、こんばんは。
そうなんですよ。すっかり忘れておりました。また、今度の機会を持てということと考えて、次回の楽しみにとっておきます。
by miyata (2006-11-14 01:00) 

miyata

シマリスさん、こんばんは。
そうですかねえ。さほど人と変わった体験はないのではと思っていたのですが。ただ、おしゃべりだというだけで・・(^^ゞ
お化けは私も嫌いです。それからホラー映画は大嫌い。血も苦手。うーん、あと高いところとか狭いところとか注射とかあげていくと、生きていけなくなっちゃいます(笑)。奈半利町へ家族で行けてとても良かったです。娘は16年ぶりでした。
by miyata (2006-11-14 01:09) 

miyata

小夏さん、こんばんは。
小夏さんの体験は私とほとんど同じですね。金縛りは慣れてくるとコントロールできるようになりますよね。幽体離脱のような経験もあります。寝ていた布団が床からグワーッと盛り上がってきて投げ出されるようになったり、そのまま天井を突き抜けて行ったり、あまり大げさなので、ああこれは夢なんだと安心したこともあります(笑)。人の声が聞こえたり、知らない人が現れたりいろいろです。睡眠麻痺という症状だと何かの本で読んで、すぐに納得しました。今でも疲れるとたまーに金縛りになることがあります。私の場合、決まってかすかな耳鳴りがその始まりです。
by miyata (2006-11-14 01:19) 

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