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ボジョレー・2 [徒然]

ワインの事は実は今もあまりよくわからない。最初にワインがおいしいと思ったのは飛行機の中で飲んだ白ワインだった。乗った飛行機がルフトハンザだからドイツワイン。あちらのスーパーでその銘柄を探してホテルで飲む。その程度だった。ただ、けっこう強烈なワイン体験がある。

ある時ベルギーを出発してフランスのアルルを通りすぎ、地中海に出て西の方に行った港町でのこと。町の名前は忘れた。海辺の町から山の方に上がっていくとそこに門があって、そこからなお深く山の方に入っていくと、見渡す山の稜線に風力発電の羽根が何十機も並んでいたのを思い出す。頂上辺りに今度は立派な門があり門番もいて、その門番に指示されて私たちは車を進めた。案内されたゲストハウスはワンフロアにベッドが三つ。部屋で仕切られているのではなく、広い部屋に低い仕切りがあって寝室と居間が区切られていた。バスは二つ。ゲストハウスのバルコニーに出てみると、その前は大きくはないが野外のローマ風劇場になっていて度肝を抜かれた。視線をあげるとずっと向こうに今上がってきた港町と地中海が見えた。ここは個人が経営するワイナリーで、風力発電機が立っている山々も全部その人の土地だった。敷地内には一周5キロくらいのオフロードコースがありパリダカに出走する車がテストに訪れるということであった。

夜のパーティーは野外のバーベキューだった。小さなワイン樽が赤白セットで何カ所かに置いてあり、自由に飲むことが出来る。仔牛が二頭分大きな串に刺されて焼かれていて、そこに皿を持って行くと取り分けてくれる。ここで飲んだワインがおいしかった。赤ワインがこんなにおいしいとはこの時初めて知った。一緒に行った人(K氏としておく。彼がこのフランスの片田舎で開かれるイベントに選手として招待され、私もくっついていった)があまりのおいしさに、自分の部屋から空いたペットボトルを持ってきてここに入れて持って帰るという。そんな恥ずかしい事は止めろとか言い争いをしていると、そこのオーナーが近づいてきてワインは好きかと聞く。もちろん好きだし、ここのワインは素晴らしいというと、多分当時は日本人が珍しかったのだろう、ちょっとこっちへ来いと言ってワインの貯蔵庫に案内してくれた。このオーナーはかなり小柄だったが顔は浅黒くてちょっとジャン・ギャバンに似た渋い人だった。しゃがれたような声で話すのだが、それがまた映画か小説の中に自分がいるような錯覚をもたらすのだった。大きな樽が並ぶ貯蔵庫の中を説明してくれながら、あるワイン樽の前でこれまた映画のシーンのようにワイングラスを二つ持ち、小さな柄杓を樽に入れピューッと上からグラスに注ぎ込んで私たちに渡して、飲んでみろという。これが筆舌に尽くしがたいほどうまかった。どうだとオーナーが聞いてきた。うまいとしか答えようがなかった。オーナーは満足げに「ワインと娘は旅をさせるなということわざがある。出来たところで飲むワインがいちばんうまいんだ。ここのワインは世界一だ。今夜は好きなだけ飲んでいけ」と言われて二人が驚喜したことは言うまでもない。

翌日の朝、ガンガンする頭を抱えて案内された食堂に行くと、そこで給仕をしていたのは知的障害者の人達だった。食堂は従業員席と来客席とは仕切られていて、従業員席の方を見ると、その人達も皆がそうした障害者の人達だった。ここでイベントを主催したP氏は「彼がこのイベントのパトロンで、地元でも障害者に働き場所を与えるなど、篤志家の人なんだ」と教えてくれた。午後になって挨拶もそこそこにおいとまするとき、そこのワインを瓶に詰めて一人6本づつお土産に頂いた。高速の入り口がなかなかわからずに暗くなっても地道を走りながら、運転していたS君に「昨夜のワインは強烈においしかった。このもらったワインも同じものかなあ。ちょっと開けてみようか」と言って、一本開けた。S君は実は前の晩に熱を出して動けず、一緒に行ったK氏から無理矢理座薬を入れられて倒れるように寝ていたので、バーベキューやワインのことは知らないのだった。一口飲んだワインはまさに昨夜味わったワインそのもの。運転しているS君にそのまま渡す。グビッとラッパ飲みした瞬間にS君は「うめー!、なんだこのワインは!」と悲鳴のように叫んだ。このS君は後にいろいろヨーロッパを体験して、一緒にイタリアに行ったときなどおいしいワインをセレクトしてくれた。ただこのS君、馬力と能力はあったが飲んだ翌日は決まって二日酔いで仕事にならないのが難点といえば難点だった。

もらったワインの後日談として、帰国したとき関税に引っかかった。問答になったが税額を聞いてみるとわずかだったので、それを早く言えとさっさと支払を済ませて出てきた。降り立った空港は成田。初めての長旅を経験したこのワイン、京都まで持ち帰るには実に重いという事に気がついた。宅急便で送ることに気がつかなかったのはなぜかわからない。東京の事務所に2本、それから東京の知り合いに2本置いていくことにした。知り合いは有名会社のオーナー一族の人で、役員室では昼時になると秘書がその日のワインをセレクトして出すような私から見ると浮世離れした会社の経営者であったが、受付にそのワインを渡して早々に京都に帰った。二三日後、その人から電話が入り、あのワインはどこで手に入れたかと聞いてきた。イベント主催者のP氏はもともと彼の知り合いであったから、彼から聞けば手にはいるのではないかと伝えた。多分、気に入ったのであろう。その後手に入れたかどうかは聞いていない。京都に持ち帰ったワインだが、気がついた時はすでになかった。もちろん、飲んでしまったのは妻である・・。
一方、一緒に行ったS君の方は、ベルギーのアパートに置いておいたらK氏に全部飲まれたと憤慨していた。

だがその後もワインを買う習慣はなかった。事情が変わったのは息子が明治屋に就職が決まり、たまたま研修で使われた教材を見かけてからだ。本の書名は「明治屋食品辞典」と「明治屋酒類辞典」。この酒類辞典がなかなか面白い。へ〜、ワインってこんなんだったんだと、新たな興味が湧いた。それからちょこちょことワインを買い始めた。買う場所はあちこちに建ちはじめた激安リカーショップ。安いワインを数多く飲んでみて、自分の好みに合うワインを探し当てるという方法をとった。その時々によって好みは変わったが、今のところ好みの基本はフランスだというところに落ち着いている。でも、カリフォルニアワインとかオーストラリアワインとか、安くておいしいと思ったものは何本かまとめて買い置きしているのだが、だいたい気がつくと無くなっている。犯人は娘と息子である・・。

ネットで買い始めたのは妻が倒れてから。何カ所かのネットショップから買ったが、一度買うと毎日のように送られてくるメールが煩わしくなって買わなくなった。「わたし、○○ちゃんが見つけた宝石のようなワイン」とか、毎日毎日掘り出される最高のワインが、とても突き合いきれないような文章で送られてくるのには閉口した。今はたまたま見つけたデリバリーワインというところから買う。店長が元レーサーで、ヨーロッパを転戦していたらしい。ここはわりあい信用している。小型のワインセラーもここで買った。うるさいメールも毎日来ないし、推薦してくるワインも外れがない。(だけど最近新しいスタッフが増えたのか、メールの文章に以前ほどの格調がないな(苦笑)) 続く


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シマリス

miyataさん、こんにちは。
やはりmiyataさんは色々な経験をなさっている。
このフランスでの素晴らしいワイン・オーナーとの出会い、開高健の世界のようです。
お知り合いも沢山いらっしゃるからなのでしょうね。
ご家族もそう解っているから、家にあるワインを飲んでしまわれるのでしょう(笑)
私もこの秋から冬にかけてはワインを愉しみたい気分です。
夏の頃はビールさえあればでしたのに。。。
ワインセラーも買われたのですね。夢です!羨ましい!
by シマリス (2006-11-20 11:50) 

左膳

拙者は、酒そのものが全然駄目でボジョレーの解禁って何故
あんなに大騒ぎするのか理解できません…。
by 左膳 (2006-11-20 18:09) 

miyata

シマリスさん、こんばんは。
ワインの銘柄も何も覚えていないんです。その頃そういう関心もなかった。今調べるとそう高級なワインを産出するところではないようです。だけどあのおいしさは、貴重な体験でした。
by miyata (2006-11-20 21:39) 

miyata

左膳さん、こんばんは。
お酒が飲めない人にとってはつまらない話題でしたね(^^ゞ
日本で大騒ぎするのは、バレンタインデーのチョコレートと同じで、つくられたものでしょうけど、まあ日本でも新酒を喜んで飲むのと同じように、向こうでも当然そういうお祝いはあるんでしょう。私もなんかそういう風潮に飲まれたくないと今まで斜に構えていたんですが、宣伝文句に弱いというかなんというか、つい買ってしまいました(^◇^;)。
by miyata (2006-11-20 21:44) 

練習菌

良いワインは旅をさせてもいけないし、目を離してもいけないんですねえ。
...φ(@@ヘ) ホォホォ...メモシトク
by 練習菌 (2006-11-21 13:06) 

ドイツ?ベルギー、フランスにイタリアと海外もあちこち行かれているのですね。このワイナリーへの招待は何故ゆえにと思いつつ、読ませて頂きました。「ワインと娘は旅をさせるな」、可愛い子には・・・とは逆ですが、なるほどですね。その血をうけつぎ息子さん、娘さんもワイン好きですか。ネット通販は確かに一度買っただけで、あれこれメールが来る(メール不要としても来たりすることも)のはちょっとうざったいかも。
by (2006-11-21 21:35) 

miyata

練習菌さん、こんにちは。
>目を離してもいけないんですねえ。
ホホホ!(^O^)、そのようですね。
by miyata (2006-11-23 14:33) 

miyata

タケノコさん、こんにちは。
仕事がらからいけば、それほど多い方ではないですが、長くやっているとそれなりにあちこち行きましたね。それも観光地とはほとんど縁のない田舎ばっかり。ところで、フランスにはこんなことわざが本当にあるんでしょうかね。
娘はビール党で、息子は日本酒、焼酎党ですが、ようするにただ酒なものでワインもよく飲みますね(__;)
by miyata (2006-11-23 14:40) 

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