散歩

暖かい日だった。10時過ぎに遅い朝食を食べた後、外に出てみないかと声をかけるがあまり乗り気ではなさそうで電池の切れた携帯電話を触ったり、私の電子辞書を触ったりして立とうとしない。私が読みかけている本をめくったりしてそのうち横になって寝始めた。
妻の携帯電話は倒れる前は最新式だったが、今では少し古典的な趣をもっている。そしてずっと電池が切れたままになっている。それでも電池が切れていることに不満を言うわけでもなく、ずっと友人にメールを送ったり、時にはテレビのリモコンや仏壇の線香に火を点けるライターになったり、まったく用をなさない万能の道具でありながら手放せない大事な道具となっている。
午後二時過ぎに目覚め昼食を食べた後またかなり時間が経ってからやっと腰を上げる気になったようで、近所まで桜を見に行くことにした。鴨川に出てみると満開の桜があるかと思えばまだほとんど蕾のままの桜もある。しだれ桜のピンクの花びらが枝からこぼれるように咲き始めていた。
木屋町に出ると高瀬川添いは満開だった。木屋町四条を上がったところでお茶でも飲もうかと思ったが目を疑った。高瀬川に面した角にあった珈琲亭という喫茶店がなくなり焼き肉屋に変わっていた。まるで記憶の中の地図が一つ一つ消されていくような気がする。新たに書き加えられることもない生活の中で欠けたピースのように空白が増えていく。
引き返して南座を下がったところのマーケットで買い物をして川端を下がって帰ってきた。疎水縁の用水路脇の桜は満開で、この辺りで妻もようやく落ち着いたのか「満開やな」と桜の枝に手を触れながらしばし立ち止まり満開の桜を楽しんだ。

さて私は糖尿病と診断されて以来、医師から処方された薬を毎食前飲んでいる。経過は順調（といわれている）で、薬を飲む時だけ病人という状態だ。今日、妻の車椅子を押しながら川端にさしかかった頃から急に体の力が抜けてきて脂汗が滲むような感覚に襲われた。それに猛烈な空腹感を覚えた。なんとか家にたどり着き、時間も6時を過ぎていたからすぐに夕食にすることにした。空腹を満たすために急いで食べたが、力が抜けたような状態が元に戻らない。もちろん食べる前には食前の薬を飲んだ。妻の世話を娘に任せて炬燵に入りテレビを見ていたが手と足が痺れるような感じになってとても座れなくなり、そのまま横になった。
そこからが不思議な感覚だった。夢を見ているようなのだが寝ているわけでもない。だけど自分で起きあがることは想像すら出来ない状態で、痺れたようになった両手と両足は重くて自分の身体とは思えなかった。苦痛があるわけではない。ただテレビの音を聞きながら夢なのか現実なのかわからなかった。
ようやく目を開けて体を起こすことが出来たのは9時半を過ぎた頃だった。手足のしびれの感覚が残ってまだ空腹感があるので買ってきたパンを食べるとようやく自分を取り戻した。落ち着いて考えてみるとどうやら低血糖を起こしたようだ。これは初めての経験だった。最初に異変を感じた時に低血糖だと気づいていれば夕食の前に薬を飲まないか、帰宅後に甘いものを口に入れれば良かったのかもしれない。だけど気がつかなかった。
原因を考えると昼食に思い当たった。食欲があまりなくて自分だけ頂き物のあん入り餅を一個食べただけで済ませていたのだった。その量に対して食前の糖尿病薬が強すぎたのかもしれない。次回忘れずに医師に報告することにしよう。

コメント 24

私σ(=＾‥＾=)の母も糖尿病です。しかも入院を勧められているのに我侭を言って入院を完全に拒否しています...(　= =) トオイメ
報告だけでなく、お医者さんと良く相談してお体をお大事になさってください。"○ｊ乙土下座
by kuri_cat (2009-04-06 13:28) 

こんにちは。
私の携帯も倒れる前は、おニューで最新でした。でも今は出すのが恥ずかしい旧型になってしまって・・・
今は電話の機能が使えるだけで問題ないものですから、ムーバが廃止となる数年後まではこのまま使っていこうと思っています。
今時、ムーバと言うのも珍しい事かもしれません。

血糖値が下がるのも怖い事なのですね。
物凄く疲れてしまったときに、金縛りのようになってしまうことは、子供の頃から何度か経験しました。
自分でも、来るぞ来るぞって解るのにどうにも出来ない嫌な気持ちの悪さ。
夢か現実なのか解らないところは同じです。

miyataさんが倒れてしまったら、と考えると恐ろしい事です。
我家も、ふたりで食前、食後にお薬を飲んでおります。共倒れだけは避けませんとね。

週末におふたりでお花見をされたのですね。
by hana (2009-04-06 13:52) 

昔の人は、そんな低血糖みたいな状態の事を、「餓鬼憑き」と言ったのかもしれませんね。
ポッケにいつも飴ちゃんを入れておくとか〜
by 練習菌 (2009-04-06 15:06) 

低血糖の怖さを改めて知りました。
健康だけは、十二分に留意して下さい。
by 左膳 (2009-04-06 18:49) 

恐ろしい状態になるね～。
低血糖に気がつかない？命に関わる事なのでもう少し
自分の身体の事も考えて行動してね。
とても、とても心配です。

仙台はまだ桜は５分咲きで、６日の開花宣言がのびました。
が我家の夫達『おやじ青年部』の花見は１８日で葉桜に
なりそうです。笑

by tomoko (2009-04-06 20:01) 

ご無沙汰しております。
糖尿病の母の見守り３０数年の私は、救急隊員からの呼び出しやら、低血糖を起こし、ブレーキも踏まずにトラックへ突っ込んだ事故やら、本当に生きているのが不思議なほどの体験をしております。。。
後、「１０分発見が遅かったら死んでいたね！」と言われた事も…
高血糖の合併症も恐いですけど、低血糖の恐さは低血糖昏睡で死と隣り合っている事にありますね。
と、偉そうに言っていますが、母はインスリンが全くでないタイプの糖尿病なので、発病時からインスリン注射です。

miyataさんも低血糖予防に、ブドウ糖を病院で頂くと良いかも知れませんね。
ちょうど１単位の顆粒のもので、一番血糖値の数値が早く上がるように思います。

こんな所に書くべきか悩みましたが、４月３日に妹が亡くなりました。
最後は穏やかに、息をフッとはいて眠るようでした。
今も、自分のベッドに寝ているようで、私はいまだに実感がなく、冷たくなったほっぺに触っては、本当なんだな～と、本当に居なくなってしまったのかと…


by ほんのり (2009-04-06 21:22) 

糖尿病だからといって控えめにしすぎてもmiyataさんのようなことが起きるのかもしれないのですね。。。低血糖もおそろしいものですね。
以前に仰有っていたように、素人判断が一番危険かと思いますので、どうか医師に相談されて、病気治療につとめてくださいませ。
by タケノコ (2009-04-06 21:50) 

こんばんわ。
低血糖ってこわいですね・・・
どうかお大事になさってください。

主人の携帯倒れた当初は新機種でした＾＾
今ではかなり古い機種です。
機種変更してあげようかな～
by tonton (2009-04-07 01:00) 

kuriさん、こんばんは。
お母様が糖尿病でしたね。入院を勧められているというのはかなり重症ということですよね。全然自覚がないのでほんとに怖い病気ですね。私は食事療法とかまったくしていないのですが、薬だけは真面目に飲んでいます。どうも今回に関してだけは薬が強いのかもしれません。
by miyata (2009-04-07 01:39) 

hanaさん、こんばんは。
hanaさんの携帯もそうでしたか。倒れる前、私はずっと旧式で女房は私のことを笑っていたんですがね（苦笑）。
今回、子供は私がただ寝ているとしか思わなかったようです。私も体がおかしいという意識（病識というのですかね）は不思議なことに全然なくてそのまま横になっていました。半分意識がなかったのかもしれません。考えてみたらこれが怖いですね。助けを求める気にもならないのですから。薬が効きすぎたのでしょう。
金縛りは疲れると私もよくなります。来るぞ来るぞって感じはよ〜っくわかります。
花見に二人で行きました。よく行った喫茶店がなくなっていてショックを受けました。女房ともよく待ち合わせをしました。珈琲亭という歌手の加藤登紀子がご主人とデートした喫茶店ということでのちに有名になった喫茶店でした。一階は高瀬川に面していてジャズや軽音楽が流れ、二階はミューズというクラシック喫茶でした。経営者は同じでしたがジャンルで分けていたんですね。
by miyata (2009-04-07 01:56) 

練習菌さん、こんばんは。
餓鬼憑きなんてさすがによくご存じですね。低血糖のことを言ってるように思えますね。薬を飲み続けなくてはならないのならあめ玉も必要かもと思いました。
by miyata (2009-04-07 01:59) 

左膳さん、こんばんは。
ありがとうございます。前回の診察の時食後一時間の血糖値が80だったので薬を減らそうかなと言っていたのですが、HbA1cが60だったのでもう少しこのままで行きましょうねということになりました。もうすぐ通院の日が来ますので相談します。
by miyata (2009-04-07 02:03) 

ともちゃん、こんばんは。
初めての経験だったから、そもそも低血糖という言葉すら浮かんできませんでした。頭の知識と実際とは違うという好例ですね。炬燵に横になる時もこれが命に関わるという認識は全然なくて、なんか疲れたみたいで身体の自由が利かないから横になろうという感じだけでした。
おやじ青年部、元気そうですね（笑）。
by miyata (2009-04-07 02:09) 

ほんのりさん、こんばんは。
妹さんのこと、こころよりお悔やみ申し上げます。
道半ばにしての死を見届けるのはさぞお辛かったことと思います。
あたりまえのことしか言えませんが、ほんのりさんが少しの休息を得られることを願っております。

低血糖予防、心します。病院でブドウ糖ですね？今度もらってきて携帯するようにします。
by miyata (2009-04-07 02:14) 

タケノコさん、こんばんは。
毎度もらう薬の説明書には低血糖の場合のことが書いてあるのですが、あれはなってみないとわかりませんね。一度経験しましたから今度は対処できると思います。とにかく、体が重くなって猛烈に空腹感がありました。単純にお腹を一杯にしなくてはとしか考えられませんでした（笑）。後で考えると普通の空腹感じゃなかったですね。
by miyata (2009-04-07 02:19) 

tontonさん、こんばんは。
ご心配いただきありがとうございます。糖尿病が治っていたらいいんですがね〜。ま、そういうことは期待しないようにします。

ご主人は携帯が使えるのでしょうか。女房の場合はほとんど使えないのですが、何かの拍子に相手に繋がって迷惑をかけたことがあるので充電をしていません。使えるのなら新しい機種に変えると喜ぶでしょうね。
そうそう、最近携帯電話が高いので古い機種（といっても一年落ちぐらいのようですが）が売れるのだそうですね。これは東京でのことです。お昼のワイドショーで見ました。
by miyata (2009-04-07 02:24) 

そう言えば数学の採点を延々とやると、頭がボーッとしてきます。
ブドウ糖が足りなくなっているせいだとの話が有り、
翌日ブドウ糖をなめながらやってたら、ボーッとなりませんでしたねえ。
私はケーキの材料売り場でブドウ糖を買ったなあ。
by 練習菌 (2009-04-07 16:32) 

練習菌さん、こんにちは。
私は初めての経験だったということは、ボーッとするほど頭を使ったことがなかったということかなあ。いつもボーッとしてて甘いもの食べても同じなんですが（苦笑）。そういえば龍大H教授の研究室で来客が饅頭を持ってきて「さあ、血糖値を上げて集中しましょうか」って言っていたのを思い出したけどやはり効果があるって事なんですね。私は単に変な会話としか感じてなくてそういう変な会話するからよけいに世間と遊離するんだなんて嫌み言ってただけだった。。(__;)
by miyata (2009-04-07 17:02) 

低血糖は怖いですね
自宅で血糖値を計る器具がありますね
by うしさん (2009-04-08 09:10) 

京都の街もずいぶん様変わりして､河原町の丸善もなくなってしまったし､木屋町もずいぶんｶﾞﾗが悪くなっているんでしょ。
貴兄はご存知かどうか､一養軒へは時々行ってました。
文面から察するに､お住まいは宮川筋か建仁寺さんのあたりでせうか？？
小生､京都で最後に住んでいたのは東山三条下がるの郵便局の前です。とてもﾛｰｶﾙな話題で失礼しました＾＾

低血糖の軽い症状は2･3回なったことがあり､その時はﾁｮｺﾚｰﾄを食べてすぐ回復しました。　
ﾁｮｺかｷｬﾗﾒﾙをいつも持ってても､いいかもしれませんね。
by Allora (2009-04-08 23:37) 

うしさん、おはようございます。
自分はそうなった時、全然危機感を感じていなかったのですが、危ないんですね、低血糖は。手軽に計れる器具はあるようですね。
by miyata (2009-04-09 08:41) 

Alloraさん、おはようございます。
ガラが悪くなってるのかどうかはわかりませんが、様変わりをしていますね。一養軒ってかくれんぼしてて隠れようと先斗町に抜ける路地に入ったら角にあるようなところですよね。何度か行きましたね。声の渋いマスターがいたように思います。裏寺の喫茶店、花ふさには毎日のように行っていました。あと時たま錦にあったロダンとか。お客さんと一緒の時は珈琲亭。これが定番でしたね。
住まいはまさにその辺りですが建仁寺より六波羅蜜寺に近いです＾＾

いつもチョコをポケットに偲ばせておくって、ちょっと魅力的ですね(^◇^;)


by miyata (2009-04-09 08:56) 

高瀬川沿いの桜、キレイでしょうね。
by SilverMac (2009-04-12 17:26) 

SilverMacさん、なんというか妖しく咲き誇るというか人を呑み込むような勢いでした。ソメイヨシノは生殖機能を持たないというのを昨年知りましたが、なんのために咲くのかと考えさせられました。桜の目的は一年に一度人を惑わすためでは無かろうかと思いました。
by miyata (2009-04-12 17:34)