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反応をし始めた。 [介護と日常]

30日 気管切開の手術は、まさか部屋でやるとは思わなかった。まるで野戦病院みたいだ。要した時間は約三十分。午前11時過ぎに終わった。同時に出血が小さくなっているので肺の管を抜いた。身体の負担はかなり減じられるのではないかと執刀した外科医は言った。
呼吸がずいぶん楽そうになった。だが咳で時たまむせる。咳をすると血が気道からあふれてくる。切開の刺激でちょっとむせるのが続くと思うがやがて落ち着いてくるでしょうと看護士。
12時過ぎふと気配を感じてベッドをのぞき込むと、妻は大きく目を開いて目覚めていた。呼びかけると声がする方を視線が追っているのがわかる。そしてようやく私の姿を捉えたのか眼の動きが止まった。「わかる?わかったら手を握って」というと手を握りかえしてきた。手を開いてというと手を開いた。「そうか、わかってるんだな。おはよう!」と声をかけるとまた手を握ってきた。安堵感に満たされる。手を握っては開く。このやりとりを30分ほど続けた後、また眠りに落ちた。
外科医の話は依然として悲観的であるので、書かない。後は脳内の出血が止まるかどうか。脳室に挿入されている管を抜かなければいけない日が年明けにやってくる。今日から主治医が若い脳外科医に変わる。そういう話だ。
夕方、子供と交替し正月の準備のための買い出しに出た。簡単でも良いからとそういう気になった。
(夜、追記します)

前回の記事で意味不明というか曖昧なところを修正。
「延命治療はしない。」→「延命治療をするかしないかにつながる。」

追記
簡単に正月料理を作るために病院には娘に先に行ってもらっていた。お昼ぐらいに電話がかかってきて「たしかに笑った」という。昨日と比較にならないくらい状態は落ち着いていて、モニターで常時表示される心拍数、血中酸素、呼吸数、血圧もずっと標準範囲にあるということだった。
ちょっとウキウキした気分で病院行きのバスに乗る。信号で止まるのがもどかしかった。病室にはいると娘が「やっぱり勘違いじゃなかったよ。私とまさきの会話を聞きながら何回も笑ったんよ。笑いすぎてむせたぐらいやったから」という。残念ながら私は妻の笑い顔には出会えなかった。だが、表情はまるで別人だった。ただかろうじて生命を包み込んだだけの無機的な肉体から、生きている人の力の放射を感じさせる。こんなに変化するなんて出来すぎた話のようで、逆に心配になる。
娘と交替で付き添う。大晦日の夜なのに見舞い時間が過ぎた頃、主治医となった脳外科医が部屋にやってきた。命は助かるのかと単刀直入に聞いてみた。彼は「うんと、その方向に動き出したと思ってもらって良い」と言った。ただし、と一呼吸おいてから「これからは感染症との戦いです。肺が肺炎を起こしている。タイミング良く気管切開したのでそれも良かったが意識障害患者の多くが感染症で亡くなっているので、安心して良いとは私の立場ではまだ言えない。脳の管も日が経てば経つほど感染症の危険が増してくる。今日の段階で髄液はまだ感染を示していないが早く管を抜きたい。これからです。それから、呼びかけに反応をするようになったけれども、この状態のままの可能性が高いのをどうするか。回復の可能性はあるのか。そういうことをこれから追求していかなければということです」といって部屋から出て行った。
医師が去った病室で、とりあえずとひとりごちてから言葉を飲む。とりあえず、その先は考えないでおこう。戻りつつある命を受け止める。重いとか軽いとかも判断しない。そうすることで喜びを実感していたかった。
看護士が入ってきて、口腔清掃や、痰の吸引などをしながら「今日は大晦日ですよ。お帰りになってゆっくりしてください。奥さんが元気になりそうでよかったですね」と話しかけてきた。そう。きっと妻は生きて家に帰ってくると信じていた。だが、妻が入院してからこの10日間ほどの間に、通路に響く悲痛な泣き声を何度聞いたことだろうか。耳は塞がない。だが、その意味を今は問わない。
病院を出ると、雪が舞い始めていた。寒さでズボンがパリパリとまるで音を立てるかのように素肌に触れてくる。表通りはシンとして暗く人通りもなく、車も数えるほどしか通らない。バスに乗ると乗客は三人しか乗っていなかった。八坂神社付近で少し多めの乗り降りはあったもののバスを降りるときふり返って車内を見ると、やはり三人しか乗っていなかった。バスを降りても雪はちらちらと舞い続けていた。

※家に帰り、残していた掃除をして風呂で身体を温めていると年を越していました。明けましておめでとうございます。旧年中はほんとうにお世話になりました。新しい年が皆さんにとって良いお年でありますように。

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コメント 13

にこにこ

よかった!耳が聞こえるのですから
奥様の負担にならない程度に
語りかけてあげたいような気持ちです
by にこにこ (2009-12-31 09:32) 

ほんのり

大変な2009年の年の瀬になってしまいましたね。
奥様の意識が戻って、とりあえずは良かったです。 
まだまだ油断は許さない状態のようですが、ご家族の想いが奥様に届くのですから…
miyataさん、どうしてもこんな状態の時は、自分の事が後回しになってしまます。(自分の体験上) どうぞ、ご自愛くださいね。

新しい年がmiyata家に幸せを運んでくれますように…

by ほんのり (2009-12-31 10:10) 

マオ

miyataさん、パソコンの不調でご無沙汰しておりました。年内にどうしてもmiyataさんにお礼をひとこと申し上げておきたく、すぐに切断するPCをなだめながら久しぶりにお訪ねして、奥様に大変なお苦しい事態がおこっていたことを知りました。申し上げる言葉もなく、ただただよい新年になりますことを祈っています。
実は私の夫も、今朝(真夜中)の3時、6時、7時に大量の血液を吐きまして、救急車で病院に搬送し、輸血などの対処治療をしていただき先ほど一時帰宅をしたところでした。昨日の就床時に、「家で一緒に新年を迎えられそうでよかったね」と話したその何時間後にこのようになり、本当に驚きました。そして、この一年お世話になったmiyataさんにはひとことお礼を申し上げておきたい、と思ったのでした。
miyataさんの何気ない励ましのコメントで、気持ちが晴れ、心が落ち着いたことが何度もありました。本当にありがとうございました。心から感謝しています。
ではでは、奥様とmiyataさんと、ご家族の皆様に、健康で清らかな新年がきますことを祈りつつ。
by マオ (2009-12-31 12:42) 

yakko

こんにちは。
良かったですね〜 涙が出るほど嬉しいです。
by yakko (2009-12-31 12:46) 

hana2009

こんばんは。

とても小さな反応でも返ってきて・・・ささやかでも前進があっただけでも嬉しい・・・そのお気持ちが、文章から私にも伝わってきました。
それでもまだ予断を許さない状況に変わりはありませんが、奥様の持つ生きる力を信じるしかありませんね。

間もなく新年がやってきます。
今年一年、ありがとうございました。
新しい年がmiyataさんにとり良い年でありますように・・・願っております。
by hana2009 (2009-12-31 23:31) 

Allora

年が明けてからのコメントになってしまいました。
まずは回復への一歩、手がかりが出来、目も合って反応もあって、貴兄の安堵感が伝わってきます。
これからです必ず回復します。念じています。
by Allora (2010-01-01 02:03) 

にこにこ

奥様の笑顔をお子様が確認できたこと
よかったですね
私は月食の撮影に成功しました。
by にこにこ (2010-01-01 05:25) 

SilverMac

miyataさんを分かってくれたのは何よりです。きっと、良くなことを信じています。
by SilverMac (2010-01-01 06:28) 

民

私も良くなること、信じています。
人間の生命力ってすごいんだなぁと、うちも何度も祖母で実感済みです。
ご自身も休める時に休んで下さいね。
by 民 (2010-01-01 07:48) 

miyata

みなさま、あけましておめでとうございます。
いつもあたたかいコメントありがとうございます。みなさんの声援にほんとうに救われました。病院は何もしなくても疲労を感じるところです。妻も頑張っているので私も負けてはいられません。もう少し落ち着きましたらまたみなさんのブログにおじゃまします。
今年がみなさんにとって良い年でありますように祈っております。
by miyata (2010-01-01 12:47) 

タケノコ

わりと早くに意識が戻られたようで、方向は「生」の方向へ動いているようで何よりです。
肺炎や感染症、とくに脳室ドレナージは病院側も感染には細心の注意を払っているでしょうが、管が髄液に触れている以上、
髄膜炎など心配ですよね。病院にいるだけでも体力も消耗されているでしょうから、お正月ゆっくりできているといいのですが。
by タケノコ (2010-01-02 17:44) 

tomoko

慰めやお見舞いの言葉は何も浮かんでこない、悲しいです。
ただただ少しでも命長らえる事を祈って居ます。

でも余り頑張り過ぎないように。
何時ものように、優しく声をかけ、手を握り、足をさすり、
家族皆が優しく穏やかに接することです。

是からまだまだ寒く成ります。
風邪などひかぬように。


by tomoko (2010-01-06 23:06) 

miyata

ともちゃん、まいりました。どうしても、あの時なぜ気がつかなかったのかと考えてしまいます。
by miyata (2010-01-07 05:36) 

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